SSブログ

「地下鉄<メトロ>に乗って」 [映画(2006)]

はっきり言って

な映画だった。作り手が何を表現したかったのか。何を伝えたかったのか。あんな結末では納得いかないし、いったいそれまでの出来事は何のためのものだったのか。

この映画も『花田少年史』同様、主人公である息子が反目していた父親を、タイムスリップして過去の父親の生き様を見る事によって理解していくのが物語の柱である。横暴で暴力的な父に反発し、兄の死をきっかけに家を出た息子が大人になり、突然タイムスリップして過去に戻り、兄の死の直前であったり、戦争直後の闇市であったり、父が出征する直前であったりと、実に都合よいタイミングの時代に脈略も無く時を越えて戻っていく。そこに彼の愛人が絡んでいき、意外な展開をしていくのだが、疑問点ばかり残り感動なんてとてもじゃないけど出来ない代物であった。

タイムスリップする事を否定してしまうと、この映画に関して元も子もないので言及しない。起こった事の不思議さを見せる映画ではなく、何らかの力が働いて父の真の姿を見せることが大切であり、その何らかの力は作り手にとってはどうでもよかったのであろう。

まず主人公は兄の死の直前にタイムスリップするのだが、どう考えてもそれを阻止できたように思える。最初は主人公もそのように振舞うのだが、肝心なところで失敗する事になる。しかし死因が分かっていた限りは阻止できていた筈である。

それだけは兄の話で、後は若き日の父親の姿を見ていくことになるのだが、戦前から戦後の闇市まで、必死にたくましく生きていく姿を目の当たりにし、気持ちも変わっていくことになるのだが、その後の家族に対して暴力的で横暴で愛人がいて家にもあまり帰らないような父親を理解し「あなたの息子で幸せでした」などという発言に繋がるとは思えないのだ。もしかしたら昔の日本男児の生き方はこれでいいのだ、ということなのかもしれないが、どうも気に入らないし好きになれない。

それから主人公には愛人がいるのだが、彼女と彼女の母親も物語の重要なキーパーソンなのだが、主人公の愛人のとる行為は恐らく殆どの観客が納得いかなかったのではと思える。まさに全てがオジャンである。作者は彼女にあの行動をさせることで何を訴え伝えたかったのか。

この映画の原作を読んでいないので、そのあたりはしっかりと書かれているのか分からないのだが、もしも忠実に映画にしているのなら、ベストセラーとはいえ原作にも問題があったのではと思える。納得できない事が作品の核になっている。尤も「原作は良かったのに映画は…」ということの方が多いので、問題は映画の作り手にあるのだろう。万が一原作に問題があるのなら、映画にする時に脚色すべき事だろう。

この映画のどこに問題があったのか検証するために原作を読んでみる、なんて行為をするつもりはないし、する気にもなれない。いずれにしても、この秋に多く公開された「ベストセラー小説の映画化」は多々問題があったように思える。原作の力に頼った安直な企画。工夫の無い見せ方。製作者側の理解不足などが感じられた。ベストセラーが映画になる傾向は今後も続くのだろうけど、本当に日本映画はこんな事で良いのか、甚だ疑問である。


nice!(1)  コメント(6)  トラックバック(3) 
共通テーマ:映画

nice! 1

コメント 6

キキ

こんにちは。この映画、泣きました!という感想が多く、だったら見たいかも。と思いつつ見れなかった映画です。
絶賛している人ばかりだったので段平さんの感想は参考になりました。
by キキ (2006-12-08 18:28) 

丹下段平

観損ねても、何も問題ありません。絶賛している人は本当に理解できたのでしょうか。雰囲気だけで感動しているような気がします。
尤も僕が少数派ということも少なからずありますが、この映画に関しては納得いかない箇所が多々ありました。
by 丹下段平 (2006-12-08 20:40) 

ももも

TBしつれいします。

「笑う大天使」ではコメありがとうございました☆

私は元々ラブロマは苦手なので、自分の目がシビアなだけかと思ったら丹下さんも、イマイチ(最悪?)だったみたいでちょっとほっとしました。
涙を流して鑑賞している母の横で、「不器用にも程がある!」と、イライラし放しの私でした。「観れる邦画」はもう無いんですかねー。はー。
by ももも (2006-12-27 12:08) 

丹下段平

もももさん、一日一本映画を観ていたらシビアにもなろうってもんです。でも「観れる邦画」はありますよ。日本映画が最低だった時代を知っているので、それに比べたら余程状況は良く思えます。但し数は少ないですけど。むしる僕は「観れるハリウッド映画」が減ったな~と思ってます。たまに良い作品があっても、過去の作品や外国映画のリメイクであったり、後はコミックの映画化や安易なシリーズもの。勿論そんな中でC・イーストウッドは別格に素晴らしいのですが、後は殆ど観る価値が無い。
な~んて事書くので、どんどん少数派となっていくのですが…。
by 丹下段平 (2006-12-28 01:36) 

ももも

そうですか。今以上に邦画最悪時があったんですね。
最近ではハリウッド物、私もほとんど見てません。というより見ても内容が薄いのですぐに忘れてしまか、イライラして終わるので辞めています。
特にコメディは最悪な気がします。ベン・スティラーとジャックブラックもイマイチな映画にしか出てない気がします。昔は面白かったのに。もう笑い所すら掴めません。いや実は元々笑う所なんか無かったんじゃないか?と思うほどつまらないと思いました。
と、勝手にグチってすみません。(しかも人の板で…)
来年に期待!ですね!^^
by ももも (2006-12-28 14:28) 

丹下段平

邦画の興行成績が近年良くなっているというのは、観客に「観たい」と思わすものがあるからでしょう。内容云々以前に「観たい」と思わすものもなかった時代もありました。まずデートで邦画を観ようなんて事はなかった。そんな時期から比べたら格段の進歩です。
またグチりに来てください。
by 丹下段平 (2006-12-29 03:57) 

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:[必須]
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 3

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。