「赤い文化住宅の初子」 [映画(2007)]
正直なところ、以前こき下ろした『さくらん』(記事)の脚本家であるタナダユキの監督作品なので、多少のためらいはあったのだが、面白そうな気がしたので観てみることにした。
しかし面白そうなんて言葉はまるで当て嵌まらないものであった。あまりにも主人公の少女の環境が苛酷で面白がっている場合ではなかった。
父は借金を残して失踪、母は病死し、残されたのは少し年上の兄と中3の初子のふたり。兄は高校を中退し工場で働いてはいるもののギリギリの生活を余儀なくされている。中学3年生の初子は進学校である東高校を目指しながらも、夜はラーメン屋でバイトをしている。しかし兄には進学せず就職し家計を助けろと迫られ、初子は泣く泣く進学を諦めようとするのだが、諦めきれず…。といったストーリー。
それにしても初子を巡る大人たちが揃いも揃ってロクデナシなのである。勤労意欲ゼロの担任教師。給料をちょろまかした挙句初子をクビにしたラーメン屋店主。僅かな生活費をパチンコや風俗で使ってしまう兄。彼らには初子に対する同情など皆無なのである。唯一初子に優しく接してくれた見ず知らずの女性は…。そんな中で僅かな希望の光を見出そうとする初子に更なる試練が待ち構えている。
こんな八方ふさがりな状況でも前向きに生きていこうとする初子が健気だ。演じているのは東亜優。可哀想なだけになりがちな初子というキャラクターに、どこか芯の通った人物に思わせてくれるのは彼女の功績であり、この絶望的な映画の唯一の希望でもある。彼女は既に『海と夕陽と彼女の涙 ストロベリーフィールズ』(記事)『PETBOX トカゲ飛んだ?』(記事)でも観ており、可愛い中に影を感じさせてくれ、キャラクターに深みを与える若手女優である。演技的にはもっと上手い同世代の女優はいるが、彼女の持つ雰囲気は他の女優とは一線を画しており、器用なだけの役者よりはよっぽど説得力がある。
彼女の兄を演じる塩谷瞬は文句無く上手い。『パッチギ!』とはあまりにもかけ離れた役にリアリティを持たせて好演している。その落差はとても同一人物とは思えないほど、どちらも嵌っており、見事という言葉しか思いつかない。
決して万人向けの映画ではないが、飾り気の無い辛口のドラマを観てみたい気分の人、若手役者の先物買いをしたい人には一見の価値がある作品である。
段平さんの書かれたあらすじを読むだけでも苦しくなるような境遇の女の子の話なんですね。健気な少女の結末が気になります。
by キキ (2007-06-03 14:28)
あまり多くの劇場で公開しないと思いますので、近くで観られる機会がありましたら、ご覧ください。可哀想な話なのです。
by 丹下段平 (2007-06-03 16:34)
大阪でやっているんでしょうか?調べてみます。 ^・^
そういえば「孔雀」という中国映画を見てきました。
なんというか、まったく先が読めない映画で新鮮でした。
by キキ (2007-06-05 00:08)
サイドバーにある「映画生活」のHPで調べたところ、テアトル梅田で上映しているようです。梅田って中心街ですよね?
by 丹下段平 (2007-06-05 00:17)
ありがとうございます。
時間があったら行ってみます。
梅田は大阪の中心街です。
でも実は大阪に来てから1年ちょっとなので映画館はもちろん、どこも良く知らなかったりするんです。(^。^;
by キキ (2007-06-05 21:31)
大阪…10年以上行ってないですね~。通過することは結構あるんですけどね。
大阪城は行ったことがありませんが、通天閣は上りましたね。「新世界」辺りは昭和!って感じで面白かった記憶があります。
by 丹下段平 (2007-06-06 21:42)