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「転校生 さよなら あなた」 [映画(2007)]

1982年の春に公開された元祖(?)『転校生』をリアルタイムに観た者にとって、この映画は注目作であり、且つ心配な作品である。

前作を汚すだけの結果になりはしないか…

「さよなら、わたし!」「さよなら、俺!」と叫びながら別れ別れになる感動のラストシーンから、実に25年が経っている。いい歳こいたオッサンが『転校生』について思い出すだけで心ときめく。キモイのかもしれないが、しょうがない。『転校生』は僕らの世代にとってはそんな映画だったのだから。

休日午前中のシネマート新宿。『転校生』だが、ポスターには蓮佛美沙子と森田直幸。副題に『さよなら あなた』とある。前作は「さよなら、わたし」「さよなら、俺」とは言っていたが、「さよなら、あなた」とは言っていなかった。その辺に何かポイントがあるのかと考えながら劇場の中へ。場内を見回してみると、30人程度の客のほぼ100%が同世代(か少し上)という状況。きっとみんな、前作を若き日に観たであろう人々。あれから四半世紀、夫々がどんな体験を経て、どんな思いを抱えて、再び、と言うか新たな『転校生』を観に来ているのか

冒頭、黒地に白い字で「A MOVIE」と出ただけで、もうヤバイ。目頭が熱くなる。

俺はパブロフの犬か!

なんて思っているうちに映画が始まる。白黒の8ミリ映画の画像、ではなく、尾道から長野へ向かう電車内の一夫(森田)と母(清水美沙)。そのもの凄い速さの会話。いや、そんなことよりも何よりも

画面がナナメに傾いてる!

何、これ?

もう既に感傷的な気分など吹っ飛んでいる。まさかこんなナナメに曲がった映画を全編見せられるんじゃないだろうな、なんて思いながら映画は進行する。前半は転校して来るのが一美から一夫に代わったなど、設定の変更はあったものの、大筋は前作を踏襲している。凄く早いテンポで物語りは進む。そしてふたりの肉体と心が入れ替わるシーン。

きっと入れ替わったところで画面が正常になるのかな?

という願いも空しく、ずっと曲がったまま。どうにもこうにも、これが気持ち悪くって映画に集中できない。勿論演出の意図はあるのだろうが、理屈を説明されたところで気持ち悪いものは気持ち悪い。大林監督くらいのビッグネームになれば、何をやっても周りから何も言われないのかもしれないが、ここまでいくと強烈なエゴさえ感じる。それに画面をナナメにして主人公たちの不安定な気持ちを表現しているというならば、それはあまりにも安易で陳腐な方法論だと思う。

内容的には前作の可笑しさ、哀しさは引き継がれている。特に後半は全く違った展開をみせる。一美の体になった一夫が不治の病で倒れ、一夫の母が見舞いにくるところなんかはとてもいいシーンだし、何より蓮佛美沙子が小林聡美に近づくくらいの好演を見せてくれている。思えば前作のラスト、「さよなら、俺」「さよなら、私」は結局一度は自分の体であった自分自身に対しての別れであったのだが、今回の「さよなら、あなた」は入れ替わった相手に対するものであり、より思いやりの気持ちが感じられて、テーマ的には前進しているのかもしれない。

それにしても、内容面は満足できるものであったが、何でこんな奇を衒った撮り方をしてしまったのだろうか。元々「50年後の長野の子供達に見せたい映画を」という依頼で作った作品らしいが、こんな傾いた映画がそんな後々まで残る映画なんだろうかと疑問に思う。それにも増して、「今」の子供達にも観られていない現実がある。映画業界では最先端の人だった大林監督も既に過去の人になってしまったのだろうか。間髪入れず公開される新作『22才の別れ』はどうなんだろうか。まだ「さよなら、大林監督!」とは言いたくはないのだが…


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コメント 8

キキ

画面がナナメに傾いてる映画?!しかもずっと?
それは不思議な映画ですね・・・・。

今回の舞台は尾道じゃなく長野だったんですね。
ストーリーは前作を見てないとわかりにくい映画でしょうか。
by キキ (2007-07-12 23:50) 

丹下段平

物語が不思議な上に、撮り方も不思議…。
前作の続きという訳ではありませんので、観ていなくても大丈夫です。
ナナメに傾いた画面が苦にならなければ感動できると思いますよ。
by 丹下段平 (2007-07-13 01:51) 

ジョー

TBありがとうございます。
ナナメの画面は「俺もまだ若いんだぜ」というサインだと受け取りました。年相応の映画づくりをすればいいのにね。でも、内容は年相応で、やはりあの年になると生死を考えざるを得なくなるのでしょう。
by ジョー (2007-07-13 22:51) 

丹下段平

ジョー、コメントありがとよ。(って言ってみたかったので、失礼しました)

確かに大林監督、若い証拠かもしれませんね。良くとれば野心的ってことかもしれません。昔から変てこな事するの好きだったし。

内容面は仰る通り、年相応なのでしょうね。『なごり雪』もかなり死を意識したものでしたし。
by 丹下段平 (2007-07-14 00:06) 

アートフル ドジャー

まだ観てないんですよね~。去年の時を~が良かっただけに微妙な話ですよね~。
by アートフル ドジャー (2007-07-14 12:18) 

丹下段平

内容に集中できれば決して悪い映画ではありません。
ぜひチャレンジ(?)してみてください。
by 丹下段平 (2007-07-14 16:11) 

尾道の女

じつは私、旦那の転勤で4月に千葉から尾道に来たばかりの「ネオ・尾道市民」(?)なんですが、尾道市民のバイブル(?)、「転校生」は今まで一度も観たことないんですぅー(ヤバイ?。。)

じつは、7月23日に尾道市内で、大林監督を招いて新・旧の転校生を同時上映する催しがあるそうなので、この機会に両作品を楽しもうと思ってます!
。(ちなみに、尾道は「昭和」の時代にタイムスリップしたような街です。私は好きですが)
by 尾道の女 (2007-07-14 17:26) 

丹下段平

尾道の女さん、コメントありがとうございました。
尾道に住むなんて珍しい(船関係の会社かな?)。尾道ライフを楽しむためにも観ておいた方が良いと思いますよ。『転校生』はその時に観るとして、他の大林監督作品(例えば『時をかける少女』『さびしんぼう』とか)や小津監督の『東京物語』、山田洋次の『故郷』とか。
観ておけば普段の散歩コースの風景も違って見えることでしょう。
by 丹下段平 (2007-07-14 17:57) 

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