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「天国はまだ遠く」 [映画(2008)]

札幌のような地方都市の場合、ミニシアター系の作品は首都圏での公開が終わってからになりがちである。多分少ない数しかプリントしないだろうから、おそらく東京などで役目を終えたフイルムが回ってくるのであろう。この『天国までまだ遠く』もそんな中の一本。地味そうな作品ながら、映画サイトへの書き込みなどを読むと、なかなか評判が良さそうである。それなら期待できるのかと思い、鑑賞してみる気になった。

自殺するために京都の宮津に辿り着いた千鶴(加藤ローサ)。タクシーの運転手(宮川大助)に人のいない場所と告げ、連れてこられたのは山奥にある「民宿たむら」。風変りな主人の田村(徳井義実)に出迎えられ、2階の部屋でひとりになったところで大量の睡眠薬を飲み自殺を図る。…が、失敗。死ななかった替わりに1日以上眠りっぱなしだったことを知る。そんな事情を知らずに出された田村の朝食。あまりの美味しさに自殺未遂したことも忘れて頬張る千鶴。食後、宿の近所をあてもなく歩き始めた千鶴は…というお話。

絶望の淵から生きていることの素晴らしさを知り、立ち直っていく千鶴の姿は感動的であった、と書きたかったところだが、どうも最初からノレないまま終わってしまった。加藤ローサ演じる千鶴から自殺という最終手段を選ぶほどの絶望的な切迫感が感じられず、その悲しみのどん底から小さな喜びを見つけ出しつつ這い上がっていくような感動が伝わってこなかった。物語の中で語られる自殺の原因も説得力に欠けるもので、「それで自殺するなら、世の中のサラリーマンの半分は自殺しちゃうよ」と思え、とてもじゃないけど共感できるものではなかった。宿の主の田村は飄々とした感じが良かったが、恋人に目の前で自殺されたエピソードが、事情についてのやりとりがなく、何となく納得いかず、物語性の少ない作品にあってキーとなるものが曖昧な感じで、全体的に死というものについて軽い印象が残り、スクリーンの中の物語から心が離れていくのを禁じ得なかった。

原作は瀬尾まいこの同名小説だが未読。と言うか彼女の作品は一冊も読んでいない。が、映画化された『幸福な食卓』は観た。あちらでは主人公のBFが事故死するエピソードがあったが、何となく物語を展開させるために「死」という手段をとっている感じが好きになれない。今回は自殺未遂なのだが、「死」の取り扱いの軽さに流行作家的な厭らしささえ感じてしまう。もっとも映画化されたのがたまたまな2作品なのかも知れないので、読んでないこちらは批判めいたものを言う資格はないのだが、彼女の作品を手に取ってみようという気が起きないのでどうしようもない。

加藤ローサの映画って、予想以上に良いことが多かったのだが、今回はちょっと残念。もっとも自殺しようとするキャラが合っていなかったのだからしょうがないのだが。

天国はまだ遠く.jpg

会社の同僚で瀬尾まいこファンのA嬢(20代半ば)とたまたまこの映画の話になったのだが、彼女に言わせると加藤ローサも徳井義実も「ありえないキャスティング」だと憤慨していた。ハーフであんな可愛い加藤ローサが、何の取柄もなく人生に絶望して自殺しようとするはずがないとのこと。僕は映画は必ずしも原作に忠実過ぎる必要はないと思っているのだが、基本設定に説得力がないキャスティングは最悪と思うので、加藤ローサに関してはA嬢に同感である。もっともそれでも説得力を持たせるのが監督の力量なのかもしれないが。


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日本インターネット映画大賞

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by 日本インターネット映画大賞 (2008-12-23 14:30) 

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