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「エレジー」 [映画(2009)]

この映画を観る前は何となく『嘆きの天使』や『ベニスに死す』みたいに、老人が若者に恋してしまい、ボロボロになって破滅していく話を想像していたのだが、この『エレジー』の場合は途中で思いを遂げることができるのだが、そうなったらそうなったで大変、という物語だった。いや、大変な様子だけではなく、それに老いていく孤独と真の愛を知ってしまった男の物語も語られる深い作品である。

大学で教鞭をとりながら批評家としてテレビでレギュラーを持つデヴィッド・ケペシュ(ベン・キングズレー)は初老ながら精力は衰えず、一度結婚を失敗した後は特定のパートナーを持たず、自由気ままな人生をニューヨークで送っている。ある日彼の教える大学にひとりの学生が入って来る。彼女はコンスエラ・カスティーリョ(ペネロペ・クルス)といい、キューバ移民の娘ではあるが裕福な家庭に育った知性と美しさを兼ね備える女性であった。一目で気に入ってしまったデヴィッドは何とか彼女をモノにしようと思い、次第に接近し、一緒に行った演劇の後、自分のアパートに誘い思いを遂げる。それから愛に満ちた日々が続くも、次第に30歳の年齢差が気になり始める。親友の詩人(デニス・ホッパー)に相談しても、無理があるから早めに諦めろとアドバイスされてしまう。彼女はその内若い彼氏ができて自分のもとを去るのではと不安になったデヴィッドは、コンスエラが一人の時に彼女の後をつけるようになり、それがコンスエラにばれてしまい…というお話。

ニューヨークが舞台ということもあるかもしれないが、『嘆きの天使』や『ベニスに死す』と言うよりは、初期の頃のウディアレン監督作品と似ているように思えた。若い女性に恋して嫉妬したり、腐れ縁の友人とのカフェでの相談話なんて定番の設定である。『エレジー』は撮り方がウディ・アレンとは全く違うし、主役のベン・キングズレーともタイプが違うので鑑賞中には気づかないが、後になって考えてみたら、これにユーモアを加えてお色気を抑えれば『マンハッタン』や『アニーホール』の雰囲気にかなり近づくことに気がついた。

いずれにしてもこの作品は興味深く観ることができた。年老いて次第に孤独になっていくデヴィッド。美しいペネロペ・クルスの肉体がもたらす悲しみと、それ故に辿り着く愛情。実に深みのある大人の物語。監督は『死ぬまでにしたい10のこと』『あなたになら言える秘密のこと』(→記事)のイサベル・コイシェ。作品全体の雰囲気がアメリカ映画には思えなかったが、やっぱりスペインの女流監督によるものだった。それに加えて主役のベン・キングズレーはイギリス人、ペネロペ・クルスはスペイン人なので、一層ヨーロッパ映画風である。ある程度の年齢を重ねた方なら共感できる作品になっていると思う。

エレジーB.gif


オートアメリカンそれにしてもデニス・ホッパーの奥方役で、元ブロンディのボーカル、デボラ・ハリーが出演していたのには驚いた。ブロンディは70年代半ばから80年代前半に一世を風靡したバンドで、『コール・ミー』『ハート・オブ・グラス』等々の大ヒットナンバーがある。少し前までサッポロビールのCMで『恋するNo.1』(テキトーな邦題だなぁ)が使われていたけど、もっと再評価されてもいいんじゃないかなぁ。僕は今でもアルバム『オート・アメリカン』が好きで、たまに聴いているんだけどね。


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