SSブログ

「ハルフウェイ」 [映画(2009)]

実に瑞々しく新鮮な映像体験だった。テレビドラマの脚本家として有名な北川悦吏子の初監督作品とあって、台詞過多なテレビドラマの延長線にあるような作品を予想していたのだが、全く正反対の映像詩的な繊細さのある傑作であった。

物語は極めてシンプル。高校3年生のカップル(北乃きい、岡田将生)が、お互いの進路が異なるために離れ離れになってしまうことへの葛藤を丹念に描写したのみで、余計なドラマもなく、過剰な演出もなく、ひたすら主人公たちの心の動く様を描くことに専念している。

驚くべきことは、この映画の出演者たちの演技が実に自然で、観ているうちにドラマであることを忘れてしまい、あたかも本物の高校生カップルのドキュメンタリーを観ているかのように錯覚してしまう程である。これは推測なのだが、もしかしたらこの作品は順撮り(物語の順番通りに撮影された作品)だったのではあるまいか。最初は好きな男の子に告白できないような女の子(北乃)が、カップルになってからは次第に勝ち気で強い女の子にキャラが変わっていく。これは撮影していくうちに北乃きいの「地」に近くなっていたのではあるまいか。だからこそドキュメンタリーを観ているかのような自然で迫真の演技ができたとも考えられる。彼氏(岡田)の志望校が早稲田と分かり、離れ離れになることが分かっていながらなぜ自分と付き合うようになったのか、と北乃きいに責められる様は、観ているこちらが思わず同情したくなってしまう(女性は北乃きいに同感するかもしれないが)。その時の凶暴さは『ラブ・ファイト』(→記事)の続編かとも思ってしまうのだが、尋常じゃない(ちょっと理不尽にも思える)怒りっぷりは演技を超えているように思えた。脇役も自然な演技でドラマに深みを与えている。友人の仲里依紗とのやりとりはカメラを意識していないかのような自然体であり、北乃きいが彼を送り出す決意を固めるきっかけをつくる書道教師を演じた大沢たかおも印象的であった。

こんなドキュメンタリーのようなやり取りを映像詩のような美しさに高めたカメラが素晴らしく、長回しでよく動く手持ち撮影ながら構図に乱れはない上に、役者を綺麗に撮る工夫もなされており技術の高さが感じ取れた。この作品のプロデューサーである岩井俊二の監督作品『花とアリス」にかなり雰囲気が近いと感じたのは、岩井自身が編集にもタッチしているからなのだろうか。それにしても師匠の作品と似たタッチながら、それを遥かに上回ってしまったのは凄いことである。

テレビドラマの脚本家の映画、というレッテルを外して、素直な気持ちで対峙してもらいたい、濃密な85分の小品である。


ハルフウェイ看板B.jpg『ハルフウェイ』が撮影されたのは僕が住んでいる札幌市の隣、小樽市と石狩市である。小樽市には映画館があるが、石狩市にはない様子。つまり石狩市から一番近い映画館のある札幌市は地元の作品のようなものである。僕がこの映画を観たのは初日の初回。しかし客はせいぜい20人程度の寂しい入り。おそらく札幌市民はこの作品が隣の町で撮影されたことを知らないだろうし(僕の勤務先調べ)、存在さえ知らないだろう。普通地元映画なら「応援しよう」とか「盛り上げよう」とか思っても不思議ではないが、そんな雰囲気は皆無。地元作品である情報は映画館にあった立て看板にある程度(左写真)で、特に配給会社によるプロモーションもなかっただろうし、舞台挨拶の類も行われず終い。この冷やかな状況は配給会社の力の無さなのか、劇場の姿勢なのか、クールな道産子気質によるものなのかは分からないが、何とも寂しい地元公開であった。撮影が行われた石狩翔陽高校の卒業生ならかなり札幌に住んでいると思えるし、その人たちにアピールするだけでも、もっと観客が集まると思えるのだが、関係者は誰もそんなことは考えなかったのだろうか。

この『ハルフウェイ』と、ひとつ前の記事『ハイスクール・ミュージカル/ザ・ムービー』は、共に卒業を前にしたカップルが進路で悩み、お互いが遠くに離れ離れになってしまいそうな設定が全く同じながら、どうしてこれ程までに雰囲気の違う映画になったのだろうと考えると可笑しくなってきた。だからどう、とかいうことではなく、それだけのことである。全くの余談でした。
nice!(4)  コメント(0)  トラックバック(14) 
共通テーマ:映画

nice! 4

コメント 0

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:[必須]
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 14

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。