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「バーン・アフター・リーディング」 [映画(2009)]

素朴な疑問なのだが、ジョエルとイーサンのコーエン兄弟はずっと連名で脚本・監督をしていることになっているけど、例えば藤子不二雄みたく、これはジョエルの作品、こちらはイーサンの作品、みたいに作品によってどちらかが主導権を握っているのだろうか。そんなことを考えさせるほど、この『バーン・アフター・リーディング』は前作の超シリアスだった『ノー・カントリー』(→記事)とは異なる、ブラック・コメディの娯楽作品。とは言え、そこはさすがにコーエン兄弟。主要人物が複雑に絡み合った、とてもよく計算された一筋縄ではいかない濃密な人間関係の構図になっている。

オズボーン・コックス(ジョン・マルコヴィッチ)はCIA局員だったが、閑職に異動させられることになり、逆上して退職してしまった。彼の妻ケイティ(ティルダ・スウィントン)との仲は冷え切っており、彼女はオズボーンと別れるために、自分に有利になるように画策中。ケィティはオズボーンのパソコンにあった秘密書類と思われる内容を密かにCD-ROMにコピーしたものの、通っているフィットネスクラブに忘れてしまう。それを拾ったリンダ(フランシス・マクドーマンド)は整形の費用を捻出したく、間抜けだがお人よしの同僚であるチャド(ブラッド・ピット)をたきつけ、オズボーンから金をせしめようと計画する。一方リンダは出会い系サイトで知り合ったハリー(ジョージ・クルーニー)に恋してしまう。しかしハリーはケイティ・オズボーンの愛人でもあり、彼女からお互いに離婚して一緒になろうと迫られていた…という複雑なお話。

なかなか面白かった。夫々が複数の人間と係り合い、悪い方へ悪い方へと連鎖反応をおこしていく。よく練られた脚本だなぁと感心する。また、出会い系サイトであったりCIAが零戦以降あまり役に立っていないなど、今日的なアメリカの現状も物語に織り込まれている。もっともそれについて深くは描いていない分、社会派とは呼べない娯楽作品止まりではあるのだが、コーエン兄弟にはそんな意識はなく、ひたすら楽しませようとするのがこの映画の目的であったのだろうから、それは決してマイナスということにはならない。

一方、役者もシリアスな殻を脱ぎ捨てて、愚かで悲しい現代人を演じている。特にフィットネスクラブの従業員二人組であるブラッド・ピットとフランシス・マクドーマンドは秀逸。ブラッド・ピットがこれほどボンクラを演じたのはヤク中の役だった『トゥルー・ロマンス』以来じゃないだろうか。この馬鹿っぷりを観るだけでも価値のある作品に思われる。

まぁ、好き嫌いがはっきり分かれる作品であると思うが、僕は結構気に入ってしまった。子供が観るには辛いかもしれないが、大人なら「ムフフ」と笑えるブラックなコメディとして楽しめると思う。

バーンアフターリーディング.gif


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キキ

こんにちは。
試写会とかで見た人の話では「面白くなかった」「寝てた」って人が多くて
どんなもんだろう?って思ってましたが
やっぱり見に行こうかなって段平さんのお話読みながら考えました。
豪華キャストですしね。
by キキ (2009-05-01 00:50) 

丹下段平

キキさん、こんにちは。
楽しめるか、楽しめないかは微妙なところかもしれませんが、癖の強い毒のある笑いを解する人なら大丈夫かと思います。尤も大爆笑って感じの作品ではありませんので、そのような期待はしないでください。
by 丹下段平 (2009-05-01 02:59) 

ばん

気に入った作品があって良かったですね。
by ばん (2009-05-01 08:50) 

丹下段平

最近は気に入った作品が多く、充実した映画ライフを送っております。毎年、この時期はアカデミー賞絡みの作品が多く、良作が揃っているようです。
by 丹下段平 (2009-05-02 00:06) 

かつら

多分、コーエン兄弟の名前に反応する人なら
「当たり」なのではないでしょうか。
<悪い方へ悪い方へと連鎖反応をおこしていく
私なんぞこのあたりに強く反応します。
by かつら (2009-05-02 05:21) 

丹下段平

コーエン兄弟の作品は癖があるので嫌いな人は嫌いでしょうね。僕も以前はあまり好きではありませんでしたが、最近好きになってきました。年齢とともに好みも変わるのかな?
by 丹下段平 (2009-05-02 10:37) 

キキ

こんにちは。
期待は少なめで恐る恐る観てきましたが、す~ごく面白かったです。
ブラックですしね。
観に行って良かったです。^.^


by キキ (2009-05-10 15:08) 

丹下段平

キキさん、楽しめたようで良かったですね。
実力あるコーエン兄弟の作品なので出来は悪いはずがなく、あとは好みの問題だったと思います。
いや~、良かった良かった。
by 丹下段平 (2009-05-10 23:58) 

hash

こんばんは。
コーエン兄弟の作品は、コミカル系とシリアス系に分かれるので、そこで主導権も分かれるのかもしれませんね。
いずれにせよ、観る人によって、好き嫌いがはっきり分かれそうです。
by hash (2009-05-11 01:05) 

丹下段平

hashさん、こんばんは。
確かに路線は二つありますね。どっちがどっちの主導権なのかな?(ど~でもいい?)
でも、コーエン兄弟の個性って言い表し辛いですよね。
by 丹下段平 (2009-05-11 02:23) 

クリス

コーエン兄弟だけあって、そうそうたるスターが集まりましたよね。
個性極まりない人物と、悲しいほど喜劇な脚本はよく練られていたと思います。
でも、なんかハマれなかったんですよね。大爆笑を期待していたせいかもしれません。
by クリス (2009-05-14 22:09) 

丹下段平

基本的にドロドロした人間関係の話なので、スカッと笑える訳じゃありませんから、しょうがないですよね。好感の持てるキャラクターが一人もいないのも一因かもしれませんね。
by 丹下段平 (2009-05-15 00:50) 

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