「風が強く吹いている」 [映画(2009)]
ここ数年、正月はいつもゴロゴロとだらけきった寝正月。気が抜けた日が続く中、モニターの中で真剣に東海道をひたすら走る若者たち。正月休みの間で箱根駅伝が唯一楽しみなテレビ番組。栄光と挫折、笑顔と涙のドラマをソファに横になって眺める。朝から酒を飲んでいたりするので時々うつらうつら…。ランナーたちが権太坂を上っていたと思ったら、気がつけば富士屋ホテル前を通過していたなんてのもよくあること。そんな箱根駅伝を目指す若者たちの姿を描いたのが、この『風が強く吹いている』である。
大学で野宿していたカケル(林遣都)はハイジ(小出恵介)によってボロアパートだが格安でおまけに賄い付きな竹青荘に連れて来られ入居するようになった。しかしそこは陸上部の寮であることを後から知り騙されたと思うカケルをよそに、リーダーのハイジは陸上部員10名で箱根駅伝を目指すと宣言する。カケルはだらけきった他の部員の様子を見て無謀だと思う他なかった。おまけにまともなコーチや監督のいない、全く実績のない寛政大学陸上部。箱根駅伝に参加することは夢のようなことに思えたが、ハイジの指導のもとで次第に部員たちは力をつけていき…ってお話。
スポーツを扱った映画が良くなるか否かは、監督や脚本家そして役者がその競技にどれだけ真剣に取り組んだかで差がはっきり出るもの。これはスポーツに限ったことではないが対象にどれだけ深い取材や練習をしたかが、作品の奥行きの深さや説得力に直結する(その最悪な例がこちら→ここクリック)。その点『風が強く吹いている』は見事だった。出演者たちは長距離ランナーの選手として説得力があった。特に林遣都の走る姿は美しく、チームのエースランナーと呼ぶに相応しい立派な存在感があった。
実はこの映画は「若いイケメン俳優を集めただけの観る価値のない作品」という先入観しかなかったのだが、観た人の評価が高い様子だったので(特にnexus_6さんのレビューが観るきっかけになった→こちら)気持が変わった。日テレの協力が大きかったのだろうか、駅伝の様子はかなりリアルで臨場感抜群。映画的に考えると、ハイジとカケル以外のメンバー各々のエピソードが不足気味で今一つキャラクターに魅力がなかったとか、マドンナ的な存在の女の子(水沢エレナ)や監督だが実は寮の大家(津川雅彦)との関わりが希薄なために、その存在が活かされていないなどの不満はあるものの、それを補って余りある良さがこの作品にはあった。学生駅伝のひたむきさをそのまま映画に移したような作品。多くの人に爽やかな感動を与えてくれる良作になっている。
ちなみに来年の正月も不謹慎な態度で箱根駅伝をテレビ観戦すると思う。
記事にして頂きましてありがとうございました。
映画的にはもっとメンバーひとり一人の深い内面や、練習の積み重ねが
並々ならぬものであることを描くべきだったと思いますが、それらを
差し引いても、爽快さが見終わった後も続く良い映画だと思いました。
単なるファンタジーに終わっていないのは「箱根駅伝」という現実の力に
よるものが大きいと思いますが、何よりも出演者の真剣さの賜物でしょう。
あの走る姿の美しさは、映画に映らないところでの努力が計り知れない
ものだったことを証明しています。
是非原作もお読み下さい!
by nexus_6 (2009-11-18 02:07)
nexus_6さん、こんにちは。
確かに出来過ぎた部分もあるので単なるファンタジーのような話ではありますが、それをあまり感じさせない説得力がありましたね。
原作も読んでみたいです。
by 丹下段平 (2009-11-19 07:57)