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「ゼロの焦点」 [映画(2009)]

母親が松本清張のファンだったので、母に『ゼロの焦点』の単行本を借りて読んだのは大学生の頃だと記憶している。まだ年号は昭和だった。そんな以前に読んだ小説なので内容に関しては殆ど欠落している。「列車を使ったトリックがあったっけ」くらいで映画を観たのだが、そんな場面は登場する気配すらなく、僕が覚えていた内容は他の小説であったことが分かった(『点と線』かな?)。映画を観ていて「あぁ、そうだった」と思う場面はなかったので、『ゼロの焦点』は読んでいなかったってことだろう。単に忘れただけかもしれないけど、映画を楽しむならかえってその方が好都合であろう。

禎子(広末涼子)はお見合いで出会った鵜原憲一(西島秀俊)と結婚し新たな生活をスタートさせたが、憲一が引き継ぎのために前の勤務地である金沢に行ったきり戻って来ない。心配になった禎子は金沢に向かう。嘗ての夫の得意先の社長・室田(鹿賀丈史)、夫人(中谷美紀)、受付嬢(木村多江)らに接触し夫の行方を探るも消息は掴めない。そんな中、憲一の兄(杉本哲太)も金沢にやって来たが、どうも様子がおかしい。何かを隠しているのか、それとも…というのが物語の序盤。

推理物なのであまり詳しいことを書いてはなるまい。しかし残念なことに真犯人は早い段階で目星がついてしまう。これは推理物としての醍醐味を持たせず人間ドラマにスポットを当てる意図があったのか、それとも犬堂一心監督の力量だったのかは分からないが、あまり成功しているとは思えなかった。おまけに登場する人物たちがどうにも昭和30年代前半の人には見えてこない。物語の核心が時代背景と密接に関係しているだけに、これでは説得力が失われてしまう。せめて出演している男優は短髪にして後頭部は刈り上げるくらいの簡単なことでもすれば少しは雰囲気がでたような気がするのだが…(漢さん除く)。

もっとも作品が書かれた時代からは既に半世紀以上経っている。犯人の動機もその時代ならではなことであり、まだ生まれていなかった者からすると(これは一応言っておきたかった)、何となく理解はできても実感としてわいてこなかったことも事実。社会派と呼ばれた松本清張だけに、同時代性こそが作品を楽しむ旬なのではなかろうか。社会色の濃い作品はタイミングが外れると急激に色褪せて見える。それが真犯人の犯行動機なら尚更である。但し、さすがに原作は名作と呼ばれているだけあって、夫の過去の秘密が明らかになっていく過程は興味深く飽きさせないことは確か。しかし映画は原作の面白さを上回れなかったのが残念であった(なんて読んでもいないのにテキトーだよね)。

ゼロの焦点.gif


それにしても、この記事を実際に出演された方(漢さんこと江藤漢斉さん)が確実に読むはずだと思うとプレッシャーで、観賞後2週間以上経ってようやく思い切って書いてみた。漢さんは田舎町の駐在さんの役で(ですよね?)、デリカシーに欠ける行動が可笑しかった。作品全体が重苦しい雰囲気の中、唯一場内(札幌東宝公楽)の観客から笑いを取ったことをご報告しておきます。


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コメント 11

漢

いろんな監督作品があるものです……映画は監督の腕次第……お客さんの反応も千差万別……「昭和時代」を切り取った松本清張氏の作品は大好きなんですが……当時の人物像を現代の若い俳優さんが演じるのには……やはり、多少の無理があったのかも知れません……私個人はリメイク版「ゼロの焦点」として見ています……昭和時代を「風化」させてはなりませんが……。
☆追伸
それにしても……あの役で笑いが出るとは有り難いものです……犬童監督の的確な演技指導のお蔭です!皆さんに感謝感謝!
by 漢 (2009-12-16 10:48) 

丹下段平

漢さん、勝手にお名前を出させていただきました。
この原作を映画にすること自体が難しい状況なのかもしれません。独特な時代色がありますから。
当時の人物像を若い役者が…というのもごもっともです。ただ、人気に囚われず昭和の顔をした役者さんを選んでもよかった気がします。本文では髪型のことを書きましたが、女性が和服を着ている割合を増やすとか、役者のかけているメガネはフレームを太くして野暮ったくするとか、細かな工夫はできたのではないかとも思えます。まぁ、一観客の戯言ですけど。

漢さんのシーンで笑いがでたのは、あのタイミングが絶妙だったからだと思います。虚をつかれたカンジでした(^◇^)
by 丹下段平 (2009-12-16 11:36) 

duke

タイトルを忘れがちなのですが、たぶん、あの話かと・・・。
そもそもあまり知らない相手と結婚するあたりからして昔っぽいので、ある程度は時代を感じさせないとですね?でも作る側も「自分には関係ない昔の話」と思われないように考えるんでしょうね~難しいバランスです。
漢さんは役者さんで出演していらっしゃるのですね!m(_ _)m
by duke (2009-12-16 17:16) 

なぎ猫

そうなんですよね。(笑)もう大体、犯人の目星は付いちゃう。広末、案外簡単に推理しちゃうし。まあ、ここはひとつ女優さんを楽しみましょう、ってことで。ちなみに友人によると、原作では中谷さんの役の女性は選挙絡まないそうですよ。昭和30年代の女性の地位向上、を絡ませたのだけは感心したと言ってました。漢さま出演は鑑賞してから知ったのでちょっと分からないです。ごめんなさい。
by なぎ猫 (2009-12-16 18:57) 

丹下段平

dukeさん、こんにちは。
セット等の人間以外は昔っぽい感じを醸しているのですが、肝心な人間があまりぽくないのかなってところです。確かに昔っぽ過ぎると今の人からは距離ができてしまうかもしれませんね。
by 丹下段平 (2009-12-18 00:01) 

丹下段平

なぎ猫さん、こんにちは。
「これ犯人を隠す気ないよな」ってくらいのバレバレで…。
中谷さんの役は彼女に出てもらうことで大きくしなければならなかったのかもしれませんね。日本映画は役よりも役者を優先することがありますから。
だからダメなんですよね。
by 丹下段平 (2009-12-18 00:05) 

薔薇少女

>実際に出演された方(漢さんこと江藤漢斉さん)
この方の駐在さんの役を、見たくなりますね!
木村多江さんは、この3女優の中で一番昭和って雰囲気
有る様に思います。
なんやかやと慌ただしく、映画をじっくり見に行く
ゆとりが持てません。
色々な事が中途半端な内に還暦の年も、もう暮れるのかと思うと
気持ちがざわついてしまいます。

接続復旧いたしました。
ご心配戴き有難うございました!
by 薔薇少女 (2009-12-18 14:39) 

ビアンカ

ご訪問 & nice ありがとうございました。
by ビアンカ (2009-12-18 15:31) 

丹下段平

薔薇少女さん、こんにちは。接続復旧してよかったですね。

木村多江さん、仰る通り一番昭和の雰囲気でした。そして一番哀れ…いやいやネタバレになってしまいそうなので聞かなかったことに…
by 丹下段平 (2009-12-19 01:18) 

丹下段平

ビアンカさん、こちらこそありがとうございました。
by 丹下段平 (2009-12-19 01:18) 

日本インターネット映画大賞

突然で申しわけありません。現在2009年の映画ベストテンを選ぶ企画「日本インターネット映画大賞」を開催中です。投票は1/14(木)締切です。ふるってご参加いただくようよろしくお願いいたします。
日本インターネット映画大賞のURLはhttp://www.movieawards.jp/です。
なお、twitterも開設しましたので、フォローいただければ最新情報等配信する予定です(http://twitter.com/movieawards_jp)
by 日本インターネット映画大賞 (2009-12-20 16:29) 

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