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「インビクタス/負けざる者たち」 [映画(2010)]

名前で客を呼べる役者から名前で客を呼べる監督になったクリント・イーストウッドの新作。今回は人種隔離政策〈アパルトヘイト〉が終焉を迎えた南アフリカ共和国で初めて黒人大統領となったネルソン・マンデラの実話の映画化。彼が黒人と白人が一つにまとまり共存していく国家にする理想を実現するため、自国で開催されたラグビーのワールドカップ大会に賭けたエピソードが中心になっている。

1994年、アパルトヘイトによる黒人差別の時代が終わった南アフリカ。参政権を得た黒人から圧倒的な支持を得て大統領に就いたネルソン・マンデラ(モーガン・フリーマン)。彼の周辺や支持者は黒人主導になることを信じ、一方白人は今後の見通しが立たず不安の中にいた。しかしマンデラ大統領は決して立場を逆転したような国家を望んでおらず、実際に側近に白人を入れて周囲を驚かせた。経済問題や犯罪の増加等、南アフリカは厳しい状況にあり、国を良くするためには人種の垣根を越えた国民の一体化が必要と信じていた。そんな中、白人たちに人気のあるラグビーの代表チーム〈スプリングボクス〉の存続が国家スポーツ評議会で話し合われていた場にマンデラが現れ、今まで通りに残すことを一存で決めた。マンデラは彼の理念を実現するためには、自国で行われるラグビーワールドカップ大会で国民全体の支持を得た〈スプリングボクス〉の勝利が鍵を握ると考えており、チームの主将であるフランソワ・ピナール(マット・デイモン)を官邸に招待した…という物語。

素晴らしい人物の感動的なドラマであった。クリント・イーストウッドの作品にこんなポジティブな映画があっただろうか。しかし、本音を言えば少々物足りなさを感じたのも事実。彼の作品の魅力は屈折した人間の業を描くところにあると思える。ネルソン・マンデラは屈折しておかしくない状況で屈折しなかった、実に素晴らしく偉大な人物像。そんな健全な偉人の実話はイーストウッドには似合わない。したがって『インビクタス/負けざる者たち』は「巨匠監督の堂々たる作品」ではあったが「クリント・イーストウッドの作品」を観たという印象は薄い。この作品の製作総指揮も兼ねているモーガン・フリーマンの持ち込み企画にイーストウッドが乗っかった作品なので学校の映画鑑賞会向きな作品になったのだろうけど、その辺りがファンとしては満足いかなかった所以である。

まぁ、クリント・イーストウッドだから物凄い高望みをしてしまうんだけどね。

インビクタス.gif


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コメント 20

よーじっく

こんにちはぁ(^_^)/
コメントとTBをありがとうございました。

確かに私もイーストウッドらしからぬ作品だと思いました。
素晴らしい仕上がりだとは思いますが、
しっかり「毒抜き」もされてますね。

南アの旧国旗が、実際の試合より映画のほうが多く
はためいていたりして、そこらあたりも微妙な「さじ加減」なんですよね。
by よーじっく (2010-02-27 15:50) 

なぎ猫

ほぼ同様の感想です。そもそもがいい話なので悪い映画になりようがないですね。
by なぎ猫 (2010-02-28 00:28) 

hash

>モーガン・フリーマンの持ち込み企画
ということで、過度な期待はしていなかったこともあり、節々で見られるイーストウッドらしさにしびれました。
by hash (2010-02-28 01:34) 

丹下段平

よーじっくさん、こんにちは。
僕も素晴らしかったことを前提として注文をつけています。毒抜きされたイーストウッド映画…高齢にして新たな方向性の作品を作ろうとする姿勢は凄いことだと思います。
by 丹下段平 (2010-02-28 09:45) 

丹下段平

なぎ猫さん、こんにちは。
立派な人物の実話を映画にしたのだから、仰る通り悪くなりようがありませんね。後は監督の腕次第って感じでしょうか。
by 丹下段平 (2010-02-28 09:52) 

丹下段平

hashさん、こんにちは。
冒頭で黒人と白人の立場の違いを分からせたり、主要人物以外のキャラクターの動かし方など、説明的ではなく映像的に伝えるイーストウッド演出の確かさが流石でした。僕は次回作も過度な期待をしています。
by 丹下段平 (2010-02-28 09:59) 

漢

ハリウッド俳優の晩年に勝ち得た人間臭い作品かも……イースト爺さんとモー

ガン父さん!まだまだこれからが映画の醍醐味を見せて!
by 漢 (2010-02-28 11:09) 

薔薇少女

映画なかなか見に行けません・・・
で、又反れますが、吉祥寺生まれなんですね。
あの写真の頃は吉祥寺だったのかな?
地方に住んでるからなのか、東京生まれってだけで
羨ましかったりします。
いくら名古屋が都会だって言っても、東京は
いつまで経っても『別格』ですね。
>ラグビーボールってつばでみがくから
高校がラグビーで有名な商業高校だったのですが、
そんな事聞いた様な・・・?
エンガチョって、どういう意味?何となく想像は出来るけど
ググってみます。。。
by 薔薇少女 (2010-02-28 13:34) 

丹下段平

漢さん、こんにちは。
イーストウッドの作品は歳を重ねてからの方が充実してますね。珍しいですが理想的です。
by 丹下段平 (2010-03-01 03:25) 

丹下段平

薔薇少女さん、こんにちは。

子供の頃の写真はおそらく家の近所でしょうから吉祥寺です。井の頭公園近くのアパートだったようです。1960年代はまだまだ郊外って感じだったと思います。

エンガチョって言うの東京だけなのかな? せっかくだから調べてみてくださいね。
by 丹下段平 (2010-03-01 03:33) 

ジジョ

良い作品でしたね☆
屈折した部分を一切排除したところも含めて、
イーストウッドの“匠の技”な気がしました。

マット・デイモンのイラスト、似てる!!

by ジジョ (2010-03-01 13:15) 

丹下段平

ジジョさん、ありがとうございます。
イーストウッド作品のクオリティは高いですね。堂々たる風格の巨匠の作品ですね。仰る通り匠の技なんでしょう。それを踏まえてちょっと文句つけてしまいましたが。
by 丹下段平 (2010-03-02 02:27) 

babu

この映画みたいと思っていたのです。
マット・デイモンはこの間、グリーン・ゾーンみてきた。
良い役者さんになったなと思います。
by babu (2010-03-02 23:34) 

丹下段平

babuさん、こんにちは。
この作品は安心してお勧めできます。
マット・デイモンも良かったですよ。
by 丹下段平 (2010-03-03 00:38) 

クリス

えんがちょ・・・(笑)
笑っちゃいました。
文部省選定映画とか、なりそうですよね。
ただ、イーストウッド映画としては弱いというくだり、なるほどなぁって思いました。
by クリス (2010-03-03 08:07) 

artfuldodger

 今回の作品も期待大!ですね。
by artfuldodger (2010-03-03 11:05) 

丹下段平

クリスさん、こんにちは。
えんがちょってもう死語なんでしょうか? すっかり聞かなくなりましたね。
良作ですが、イーストウッドの代表作には入ってこない作品って気がします。
by 丹下段平 (2010-03-03 23:21) 

丹下段平

アートさん、ぜひ期待してご覧ください。
by 丹下段平 (2010-03-03 23:22) 

coco030705

こんばんは。
「グラン・トリノ」がすごくよかったので、期待しすぎた感があります。
でもなんか心にガツンとくるものがなかったのは、確かです。

モーガン・フリーマン、アカデミー賞を逃して悔しそうでしたね。
彼にあげたかったわ。マット・デイモンの使い方は、さすがでした。
まるで実在の人物のように、はまってました。
TBさせていただきます。
by coco030705 (2010-04-01 21:35) 

丹下段平

cocoさん、こんにちは。
良作なんですけど、ガツンがありませんでしたね。すごく高望みしていることは百も承知なんですけど、イーストウッドだけに…ってところでしょうか。

モーガン・フリーマンはイーストウッド以上にこの作品に賭けるところがあったのでしょうね。でも好演していたことは間違いないですね。
by 丹下段平 (2010-04-01 23:19) 

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