SSブログ

「再会の街で」 [映画(2008)]

僕の仕事の取引先で、長年連れ添った妻に先立たれた人がいた。それまでは実にバイタリティ溢れ、職場でもリーダシップを発揮しバリバリと仕事をこなす人だった。しかし奥さんに先立たれてからは全く別人になってしまった。常に目は虚ろ、他人の言葉は耳に入っているのかいないのか分からない。まさに廃人のよう…いや、廃人になってしまったのだ。

そんな人を間近にしたことがあるので、この映画のチャーリー(アダム・サンドラー)が9.11テロで家族(妻と娘3人)を一度に亡くした後、廃人のようになってしまった姿は決して絵空事ではなく思えた。大きな喪失感に押し潰され、それを跳ね除けられなければ人間お終いである。

この映画の主人公はチャーリーと歯科大学時代にルームメイトだった黒人歯科医のアラン(ドン・チードル)で、彼の視点で偶然再会したチャーリーやアランの周辺の物語が進行する構成になっている。久しぶりに逢った旧友は精神を病んでいるのか、すっかり別人のようになってしまっていた。9.11のテロでチャーリーが家族を失ったことは知っていたが、あれから数年経っても立ち直れないでいることは知らなかった。喪失感から逃れるための現実逃避なのか、本当におかしくなってしまったのか。何れにしてもアランはチャーリーを立ち直らせねばと思うのだが、家族の話を訊ねると彼は逆上してしまいなす術が無い。そんなチャーリーと付き合ううちに、アランの家庭でも問題が起こり、さらには職場でも…というお話。

アランがチャーリーに付き合って再生の道を探ろうとしても拒否されてしまい、一向に良くなる兆しが見えず、観ているこちらまでジレンマに陥ってしまうのだが、チャーリーの心に負った傷の深さを考えればそんなに急に治る筈はなく、悲しみがずしりと伝わってくる。一方、狂言回しの役割を担っているアランのエピソードがチャーリーに比べ薄い印象なのがこの映画の弱点か。終盤、アランの物語への関与が希薄になることで感動まで持っていけないのが残念。しかし、一見の価値はある作品には仕上がっていると思う。

僕の取引先の人は結局立ち直れないまま会社を去った。あれから随分時は過ぎたが、この映画を観て久しぶりに思い出した。いったい、今、彼はどうしているのだろうか。


nice!(4)  コメント(8)  トラックバック(11) 
共通テーマ:映画

nice! 4

コメント 8

coco030705

この世の中では、悲しいことがたくさん起こりますね。
伴侶を失うことも、9.11テロで家族を失うことも悲しみは
同じ重さなのだと思います。
何か生きていくすべはないのでしょうか。この悲しみをを救えるのは
哲学か宗教しかないのかもしれないと思いました。
by coco030705 (2008-01-19 23:26) 

キキ

チャーリーに出会ったことで再生の道が見えてきたアラン。
取引先の方も出会いが合ったことを願うばかりです。
チャーリー役のドン・チードル、なかなか良かったですよね。
by キキ (2008-01-20 09:17) 

丹下段平

ココさん、こんにちは。
悲しみを救えるのは哲学か宗教ですか。確かにそのふたつはイコールのような関係がありますよね。悲しみから逃れるというよりは、その現実を認めて受け止めることを説くという感じでしょうか。その関係は無知なもので…。
by 丹下段平 (2008-01-20 09:33) 

丹下段平

キキさん、やっと観てきました。
取引先の人、どうなったか分かりませんが、立ち直れたことを祈るばかりです。
妻に先立たれた人を何人も知っていますが、子供がいるかいないかが大きな分かれ目のようです。この取引先の人はいなかったので、心の張りが無くなってしまったようです。
by 丹下段平 (2008-01-20 09:39) 

江戸うっどスキー

こんばんわ。
凄く的を得てる!!私も、こう書きたかったんですが、途中で捩れちゃいました。
誰かに話すことで、少しずつ前を向いていく、そんなメッセージがあったようですね。取引先の方も、アランの様な友人に癒されているといいですね。
by 江戸うっどスキー (2008-01-20 18:57) 

丹下段平

江戸さんありがとうございます。
アメリカって個人主義の国だから友人関係も希薄で気軽に話せる友人って少ないのでしょうかね。だからセラピストみたいな人が必要なのかと思えました。
日本もこれからそのような職業の人が必要になるような気がします。
取引先の人は厳しいかなぁ、って感じでした。
by 丹下段平 (2008-01-21 01:28) 

アートフル ドジャー

僕の周囲にも居ました、同様な方が・・。事が事だけに頑張れとも言えずに・・。立ち直ってもらいたいですよね~。
by アートフル ドジャー (2008-01-24 17:02) 

丹下段平

アートさん、ありがとうございます。
こんな目に見えない傷って、周囲の人間ではどうにもならないものですね。「時が解決する」って言葉がありますが、そうであってほしいと願うばかりです。
by 丹下段平 (2008-01-24 22:18) 

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:[必須]
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 11

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。