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「ヨコハマメリー」 [映画-DVD]

最近の自分が書いた記事を眺めていると、ロマンポルノとか寺山修司とか自主映画とか、どんどんマイナーなベクトルに引きずり込まれている気がしてきました。だれか堕ちるのを止めてくれ~っ!

ってことで、今回はDVDで観た『ヨコハマメリー』。


ヨコハマメリー横浜に初めて訪れたのは中学校の社会科見学だったと思う。1970年代後半の横浜は東京の中学生にとっては、嘗て見たことのないような風景のカッコイイ街だった。観光バスから見えた街角の自転車屋の看板に書かれていた英語の文字。それはデザイン的にお洒落とかではなく、ごく日常的に必要だから書かれていたもので、風景にマッチした無造作なカッコ良さがあった。もちろん自転車屋に限らず、どの店の看板にも英語が併記されていた。港の近くには倉庫があるためか、鉄道の貨物専用の引込み線が走っており、踏み切りの警報機にもCAUTIONと当たり前のように書かれている。

カックイイー!

と思えた。全てがさり気なく、異国の風を感じる街。無自覚なカッコ良さは10代の少年をハードボイルドな世界に誘った。

そんな街も観光地としての自覚を持つようになったのか、ぶっきらぼうな魅力を美しいとは思わなかったのか、どんどん創られたお洒落な装いに変貌していく。引込み線は廃止になり遊歩道になった。店の看板も意識した綺麗なものに変わっていった。ほっぽらかしだった赤レンガ倉庫もお洒落なスポットになり、埋立地には高層ビルも建った。すっかり観光客を意識した美しい街並みは、多少なりとも昔を知るものには急激に魅力を失っていくように映った。

そんな変貌していく街を戦後ずっと街角で見続けていた、ハマの人間なら知らない人はいないくらいの有名な娼婦のメリーさんを取り上げたのがこのドキュメンタリー映画。厚化粧の異様とも思える白塗りで、老人となり腰が曲がってしまっても街角で通り過ぎる男に声をかけ続けたメリーさん。そんな彼女も1995年を境にハマから姿を忽然と消してしまった。噂が噂を呼び、都市伝説の如く語られるようになった彼女と親交のあった人間にインタビューし、彼女の存在とはいったい何だったのかを追い求めた映画である。

と、本来はその目的で創られ始めた映画であったと思われるのだが、彼女と一番親しかったと思われるシャンソン歌手の永井元次郎氏の半生に多くの時間を割いていたり、昔の悪の巣窟のような店の説明であったり、彼女を取り巻く人や場所に創り手の関心が移る。意外にメリーさん自身のことはよくは取材されているのだが深みに欠けた印象を受けた。彼女に対するインタビューに客として接した人が登場しなかったり、腰が曲がって客がつかなくなってからはどう収入を得ていたのかとか、そんな下世話な興味を満たす証言はなかった。

そして映画の方向性は彼女を中心にそれを取り巻く人々という感じで広範囲なものになってくる。そこで見えてくるものは横浜という、特異な街そのものである。クールなんだけど人情も残っている、都会なのに場末の雰囲気がある、無頓着な振りをして実は街をこよなく愛している、何よりメリーさんのような変てこな風来坊を受け入れる懐の大きさ。そんな港町らしい魅力が伝わってくる。そこには創り手自身の横浜という街への思いが滲み出ていたのだと思う。

僕も最近では仕事で横浜に出向くことが多くなり、野毛に行きつけの飲み屋なんかもあったりするようになった。そこのママは横浜への愛が言葉の端々から窺えるのだが、実はどこか田舎から出てきた人であるらしい。出てきたと書いたが本当は流れてきたという表現の方がこの街には似合う。それは日本だけに限らない。中国、台湾、韓国、アメリカ、みんなどこからか流れてきた人。メリーさんもどこかの田舎から流れてきた。横浜はそんな人たちが行き着く街。だからこそメリーさんのような人が生き延びてこれたのだと思う。街の様子は変貌しても風土は変わらない。

バーのママが「この街は去る者は追わず、来る者は拒まずなんだよ」と語っていたが、そんな芝居がかった台詞も臭くならない。多少本来の製作意図とはずれてしまったと思われるが、横浜の街を表現した魅力的なドキュメンタリーであった。


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コメント 4

丹下段平

COROさんnice!ありがとうございました。
by 丹下段平 (2008-01-20 17:06) 

丹下段平

はっこうさん、nice!ありがとうございました。
by 丹下段平 (2008-01-27 23:55) 

nexus_6

兄は横浜暮らしが長いので、メリーさんを何度か見かけたことがあるそうです。敢えて詳しくは聞かないようにしていますが...

私も野毛にはよく行きます(参加するサンバチームの活動拠点がありますので)。桜木町界隈には忘れた昭和が残っているような気がしますね。
by nexus_6 (2008-02-06 20:48) 

丹下段平

僕も野毛はたまに行くことがあります。野毛から伊勢佐木町に至る界隈はレトロな雰囲気ですね。昔ながらのキャバレーみたいなのもありますし。風紀は良くありませんが懐かしい危うさが残っていますね。
by 丹下段平 (2008-02-07 07:36) 

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