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「今宵、フィッツジェラルド劇場で」 [映画(2007)]

ロバート・アルトマンの遺作は、彼自身が人生の終焉の日を意識したかのような、惜別の念が滲み出た傑作。今までの皮肉っぽい視点は無く、角が取れてそこに残ったものは人間愛に満ち溢れた優しさであった。

な~んてね。

もっともらしい事を書いてしまったけど、前にロバート・アルトマンの作品は『M☆A☆S☆H』以来観ていないって、記事にしてしまっているので、こんな事を書いても全然説得力なし。

しかし、この映画は本当に素晴らしかった。今まで彼の作品を見送ってきた自分が恥ずかしい。さんざんリアルタイムで観るチャンスがあったのに、昔の印象が良くなかっただけで敬遠してきてしまった。映画ファン失格の烙印を自ら押そう。

この映画はストーリーよりもシチュエーション。長きに渡って続いてきた公開ラジオ番組「プレイリー・ホーム・コンパニオン」の最後の放送とその舞台裏を描いた群像劇。

主要登場人物は司会者兼歌手兼構成作家のギャリソン・キーラー。何と本人役で、彼は実際にこのタイトルのラジオ番組を持っている。つまりこの映画は「プレイリー・ホーム・コンパニオン」というラジオ番組の仮想最終回でもあるのだ。

そして出演歌手にメリル・ストリープとリリー・トムリン演じる姉妹カントリー・デュオのジョンソン・ガールズ。まるで紅白によく出る安田・由紀姉妹のようである。彼女たちは舞台裏で昔話に花を咲かせている。これは今回が最終回であるために感慨に耽っているのか、はたまた毎回同じような話を繰り返ししてきたのか。それにM・ストリープの娘役のローラ(リンジー・ローハン)が絡む。

そして下品ソングを唄うコメディアンのようなカントリー・デュオや老ベテラン歌手の出演者、番組スタッフ、警備員、食堂のオバチャンなど、永らくこの番組に携わってきた人々の様子を映し出す。

番組は最終回にも係わらず、普段の放送と変わらずに進んでいく。しかも観客にはこれが最後と伝えていない。いや、伝えられないでいる。そして、そんな番組放送中の劇場に謎の白いコートの女が現れて…。

とまぁ、そんな感じの映画。

実はこの白いコートの女は天使で、出演中の老歌手の命を引き取りに来たのだった。ネタバレだがこのシーンは予告編で流してしまっているので、配給会社公認のネタバレであろう。映画の後半は彼女の存在がキーになっている。そしてラスト、彼女が再び現れ、据えられたカメラに向かって歩き出し、その脇を抜けて向かった先は…。

この映画がR・アルトマン監督の遺作というのは納得できる。きっと死期を感じていた彼には白いコートの女が見えていたのかもしれない。天使がカメラの後ろにいる監督に向かって歩いていったと思わせるなんて出来過ぎなのである。でも、そうやって名監督は観客に別れを告げようとした、と思いたい。実に粋なお別れ。映画の中のラジオ番組と相俟って別れを感じさせる作品だが、それがウエットにならないのが、またいい。

名優と名匠の織り成す絶妙なハーモニー。ぜひ多くの人に堪能してもらいたいが、ミニシアター系の上映なので、観られる人は限られるかもしれない。機会があったらぜひ、ぜひ。


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コメント 16

ジジョ

す、すいません。この映画未見なので本文は読んでないんですけど、
このイラスト絶品ですね☆ それだけ言いたくて、、
by ジジョ (2007-03-29 04:36) 

coco030705

おはようございます。
私もこの映画見たいと思っています。メリル・ストリープはやっぱり
すごい役者ですね。このイラスト、特徴がよくでててすばらしい!
ちなみに、左の「ゴシップ&ニュース」もおもしろいですね~。(^^)
by coco030705 (2007-03-29 08:04) 

キキ

こんばんは。
この映画、私も絶対見たいんですけど今仕事が忙しくて行けないかも・・・・。
上映されてる映画館も少ないですよね。

ゴシップニュースは私も時々読ませていただいてます。 *^・^*
by キキ (2007-03-29 21:54) 

丹下段平

ジジョさん、ありがとうございます。
機会があったら映画も観てくださいね。
by 丹下段平 (2007-03-30 00:05) 

丹下段平

ココさん、メリル・ストリープは凄いですよね。観る映画でこんなに印象が違う人は稀有な存在だと思います。それでいて、どの映画でも適役と思わせるのですから、まさに名優。
映画、ぜひ観てください。
by 丹下段平 (2007-03-30 00:11) 

丹下段平

キキさん、確か関西でしたね。大阪ならテアトル梅田で上映してるようです。あと京都と神戸でも1館づつ上映されてます。余裕が出来たらぜひご覧ください。
実はゴシップニュース、自分でも滅多に読まないので、そろそろ外そうかと思っていたところでした。でも皆さん読んでいるのでしたら、しばらく残しておきます。
by 丹下段平 (2007-03-30 00:18) 

アンソン

 扉の写真。いつもおしゃれですね? 横浜日劇に続き、今回は大林映画の尾道でしょうか?
by アンソン (2007-03-31 23:40) 

丹下段平

当りです。尾道でした。詳しくは記事をお読みください。
by 丹下段平 (2007-04-01 00:10) 

アートフル ドジャー

アルトマンの作品って意外に持ってるし、僕は彼が撮る映像好き!なんですよね~。
by アートフル ドジャー (2007-04-01 22:43) 

丹下段平

本文に書いた通り、殆ど彼の作品を観ていなかったので、今回好きになりました。未見の作品が多いってことは、楽しみもたくさん残っていることですよね。
『ナッシュビル』観て~。
by 丹下段平 (2007-04-02 00:50) 

coco030705

こんにちは。
見ました!とってもいい映画でした。こころがほわ~と
温かくなりました。
TBさせていただきますね。
ところで、バナーが変わりましたね。香港でしょうか。
素敵ですよ☆
by coco030705 (2007-05-01 16:10) 

丹下段平

ココさんコメントありがとう。やっと観た人からのコメントが…。
ちょっとミニシアターで限られた人しか観られないのが勿体無い映画でしたね。

バナー、香港ではありません。歌舞伎町でもありません。よくご覧いただければ、ネオンに地名が書いてありますよ。
by 丹下段平 (2007-05-01 22:13) 

coco030705

あ、上海だ!(^^)↑
by coco030705 (2007-05-01 23:58) 

丹下段平

当り! 上海です。よく分かりましたね!!
…ってほどではありませんが。
by 丹下段平 (2007-05-02 07:52) 

David Gilmour

こんばんは、トラバありがとうございます。

ぼくは、この映画を見て、カントリー・デュオのジョーク「ペンギンネタ」がとても気に入りました。

それでは、またよろしくです!!
by David Gilmour (2007-12-02 22:13) 

丹下段平

あのデュオはお下劣で面白かったですね。
もう少しで放送禁止なんでしょうけど。
by 丹下段平 (2007-12-02 23:53) 

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