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「キサラギ」 [映画(2007)]

良く練られた脚本、力のある役者。これだけあれば、大金を注ぎ込まなくても面白い映画が創れるという好例。

焼身自殺したD級アイドル如月ミキの一周忌の日に、彼女のファンサイトで知り合った安男(塚地武雅)、スネーク(小出恵介)、オダ・ユージ(ユースケ・サンタマリア)、イチゴ娘(香川照之)にサイトの管理人であり会の発起人でもある家元(小栗旬)の5人の男が、都内某所の一室に集まり追悼集会を始める。しかし、オダ・ユージが如月ミキの死因に疑問を提議したことから、会は思わぬ方向へ。どうもこの中に如月ミキを殺した犯人がいるのではないか…という話。

5人が集まった一室だけで繰り広げられる一幕物の密室劇。映画よりも演劇向きな題材で、撮り方も特に凝った事をしていないため、芝居の実況中継を観ているような感覚になる。しかし、二転三転するストーリーの面白さに引き込まれて、興味深く最後まで観入ってしまう。

しかも実力者を集めたキャスティングが実に的確で、男5人の話というむさ苦しい設定でも、全く退屈することはない。特に一番変なキャラクターのイチゴ娘に、恐らくこのメンバー内では一番の実力者であろう香川照之を起用したのは大正解で、一人だけ浮いてしまいわざとらしく感じる、ということもなく物語の世界に溶け込んでいる。

(この続きは、まだ観ていない人は読まない方がいいでしょう)

しかし、大変満足いく面白い作品ではあるのだが、気になったこともあった。

まず、映像の悪さ。もしかしたら僕が観た映画館に問題があったのかもしれないが、とにかく画面が薄暗く汚い。薄暗さは演出の意図したところなのだろうが、作品は意図したような薄暗さとは見えず、単に映像に無頓着な印象を受けた。

それとラスト。せっかくそこまで如月ミキの顔が映らないよう隠してきたのに、何故最後になって出してしまったのか。顔を映さないことでこちらの想像力を喚起して、自分なりのイメージで楽しんでいたのに、出されてしまってはがっかりして力が抜けてしまった。顔を出さない演出プランで引っ張ってきたのだから、最後まで絶対に貫き通すべきではなかったのか。もしかしたらプロダクションサイドや製作に名を連ねているレコード会社のゴリ押しで、新人アイドルを出さざるを得なかったのか、とオダ・ユージのように詮索してみたくもなる。おまけにラストになって急に作品の切れ味が悪くなり、エンディングが幾つもあるようなものになってしまい、観終った時の印象が多少悪くなってしまった。

とは言え、近年の日本映画の中では秀逸な脚本の作品になっている。オタクのキモイ話ではないので、多くの人に観てもらいたい映画であった。


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コメント 4

キキ

ミキちゃんの顔ははみたくなかったという人多いですね。^。^
最後にずっこけてる人、多そうです。
私は「へえ、こんな子があれほど熱く語るみんなのアイドルなんだ・・・」と妙に感心したんですけどね。
現場は男ばかりで楽しかったらしいですよね。
by キキ (2007-07-22 08:45) 

丹下段平

ミキちゃんは自分なりに想像して観ているので、イメージしたコとのギャップがありましたね。でもD級アイドルなら、最後に出てたコくらいなものなんでしょうね。リアリティありすぎでがっかりでした。
by 丹下段平 (2007-07-22 10:29) 

アンソン

信頼のブランド・丹下さんの高批評で(前半のみ読んで)見に行きました。確かに面白い部分は多いのですが、決して完成度の高い作品ではなく、んーーーと思いながら、丹下さんの批評の後半を読み納得しました。そうですよね。あれはないと思います。あれなら最初から顔を見せればいいのです。その上、僕が見た映画館でもやたら画面が暗くて見辛かったです(シネパトス)。撮影も安易な引き絵が多いし、時間ないので稼いで撮ろうという意図も見えて、映画的でなかったです。物語も、どんなにがんばっても、死んでしまったことには変わりなく、「自殺でなく、事故死でよかったね?」で感動するはずもなく、おもしろい設定なのに結果的にどう足掻いても、嫌な後味を残すことになる設定に難があります。要は「12人の怒れる男」パターンを踏襲したところはいいのですが、結局、まとめきれずに宍戸錠に頼って、あのような終わりにするしかないところ、残念でした。丹下さんの後半の指摘通りに感心できない作品だと思えます。でも、この程度でも最近の日本映画ではいい方ですよね・・。
by アンソン (2007-07-25 21:39) 

丹下段平

アンソンさん、こんばんは。
記事の前半で褒めておいて、隠した後半で文句つけているので、絶賛しているかのようにとられてしまったのですね。すいませんでした。
でも、この作品はネタバレになるような事は極力読んでいただかない方がいいかなと思ったので、このようにしてしまいました。
やはりラストの落としどころに難のある作品でしたね。そこまで面白かったのに残念でした。

画質の悪さは映画館のせいではないようですね。
by 丹下段平 (2007-07-25 22:42) 

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