「GOEMON」 [映画(2009)]
映画『GOEMON』について書き始める前に1冊の本を紹介したい。
この本はつい最近、たまたま書店で見かけて購入したもの。要はここで紹介されているのは、昭和30年代に発行された絵葉書で、観光地の風景や交通機関や風俗など数々の写真が並んでいる。絵葉書の写真は面白味がなく、個人的に買ったことはないのだが、長い年月を経ると、「当時の人たちはこんなものに興味があったのか」などと思いを馳せられるのが面白かった。それ以上に面白いと思ったのは色合い。(おそらく)白黒で撮られた写真に、後から人工的に着色された疑似カラー写真は、実にチープでキッチュな独特な雰囲気を醸し出している。
さて、映画『GOEMON』なのだが、作品全編が上に挙げた本で紹介されている絵葉書の色合いに極めて近いトーンなのである。監督の紀里谷和明は撮影済の映像を(多分)コンピュータで色を変えて、不自然とも言える人工的な視覚効果を狙った、彼の個人的な趣味の世界を創り上げた。おそらく撮影後に何らかの処理がされなかったカットはほとんど無かったのではなかろうか。そんな癖の強い世界観にノレルか否かは観客の趣味に依存される。僕は上の本を買うくらいだから、監督と趣味が合ったので、決して嫌いな作品ではない。しかし、こんな趣味はマイナーな部類だと思えるので、広く受け入れられるとも思えない。世間的な不評は、こんなマイナーな好みを前面に押し出してしまったのだから、致し方なかろう。
物語は主人公の石川五右衛門(江口洋介)、霧隠才蔵(大沢たかお)、豊臣秀吉(奥田瑛二)、徳川家康(伊武雅刀)、茶々(広末涼子)、猿飛佐助(ゴリ)ら、歴史上人物や空想上の人物が入り乱れて、実際の歴史を無視し、時代考証も無視したオリジナルなものになっており、会話も現代口調なため、時代劇と言うよりはファンタジーと言った方が相応しいものになっている。これも意見が分かれるところかと思うが、ぼくは「それはそれで好し」と思えた。舞台『劇団☆新感線』を何度か観て、こういうものに慣れていたのも大きかったかもしれない。
脇役まで豪華な配役をし、お金も相当かかっていると思えるが、監督の好みでマイナーな方向へと持っていかれたこの映画。実にユニークなものになっているのだが、趣味が合うかは保障できないので、なかなか薦めにくい作品である。
お勧めにくい作品は観ません。
by ばん (2009-05-13 10:04)
観ましたよ~!!
映画としてはどうかな、と思いますが
静止で見た場合の絵がとても美しくて
趣味的に極めていると思いました。
前作キャシャーンより映画っぽいので^^;
次回作に期待します。
by duke (2009-05-13 11:32)
昭和30年代の絵葉書、みうらじゅんさんが好きな世界ですね。
文化人類学の資料としても重要だと思います。
紀里谷監督については賛否分かれそうですね。
「キャシャーン」はメッセージは痛いほど伝わって来るのですが、いかんせん
映像が PV、若しくは「深夜枠の特定層を狙ったドラマ」という印象で
どうしても劇場作品としては苦しいものがありました。
今回もそんな予感が...
by nexus_6 (2009-05-13 23:13)
テレビで宣伝していましたが、映画『GOEMON』より
紀里谷監督のイケメンぶりに惹きつけられちゃいましたぁ~
左の画廊の絵も丹下さんが描かれたんですか?
素晴らしいですぅ。
by 薔薇少女 (2009-05-14 16:49)
ばんさん、こんにちは。
観ない方が賢明だと思います。
by 丹下段平 (2009-05-15 00:23)
dukeさん、観たんですね。確かに一般的な見方をすれば「どうかな~?」って作品だと思います。僕は単に趣味が合っただけだと思います。
by 丹下段平 (2009-05-15 00:26)
nexu_6さん、今晩は。
実はみうらじゅんも好きです。ヘンなもの好きは共通しているかもしれません。
「キャシャーン」は観ていないのですが、たぶん予感されている通りの結果になると思います。
by 丹下段平 (2009-05-15 00:29)
薔薇少女さん、お褒めいただき、ありがとうございます。
左の画廊にある絵は昔の記事につけたイラストがぐるぐる回っております。出来不出来はありますが、お楽しみください。
by 丹下段平 (2009-05-15 00:33)