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「おとうと」(山田洋次監督) [映画(2010)]

この『おとうと』の劇中、自転車屋のオヤジ(笹野高史)が「どこの家でも親戚にひとりは困った人物がいるもんだ」的な内容の台詞を言っていたが、僕の親戚にも(この作品の鶴瓶に比べたらたいしたことないけど)確かにそんな人がいた。母方のS叔父がその人。農家であったのだが、とにかく仕事嫌いで、ちょっと家族が目を離した隙にどこかへ遊びに行ってしまう人物で、親戚中から「ナマケモノ」のレッテルを貼られていた。親戚の集まりがあると酒に酔って子供たちをからかっては周囲を笑わせるのがお約束で、まだ僕が幼かった時分はよくいじられたものだ。子供にとって親戚の集まりなんて退屈でしかないのだが、そのS叔父のお陰で少しはまぎれることもあった。しかし酔っ払いに絡まれる不快さもあり、僕にとってのS叔父は「面白い」と「鬱陶しい」の境界線ギリギリにいるような人だった。

さて、映画『おとうと』だが、前作の『母べえ』は山田洋次監督にして初めて戦争を扱った意欲作であったが、今回はどこにでもあるような現代劇の中で「家族」をテーマとした、山田監督ならではの物語。タイトルロールのおとうと役の笑福亭鶴鶴瓶は『母べえ』で演じた役をそのまま引き継いだかのような困り者な人物像。そのおとうとに頭を痛めながらも可哀想に思っている主人公に、これまた『母べえ』に続いて山田作品に出演の吉永小百合。この二人に寅さんとさくらの姿が重なり、シリアス版『男はつらいよ』の仮想最終回のようにも思えてくる。この二人だけの物語になってしまうと息が詰まってしまいそうだが、主人公の娘(おとうとからすれば姪)に蒼井優(と、その彼氏の加瀬亮)を入れることで若い側の視点も加わり、映画が煮詰まるのを回避するクッションになっている。

後半はストレートなお涙頂戴的な展開になっていくのだが、どこか主人公たちを突き放し、冷静に見守る監督のスタンスが作品を単なる泣かせ映画にしていない。それでいて泣けるのだから見事な手腕である。山田監督は渥美清を失って新たな作風への転換を余儀なくされたが、前作から笑福亭鶴瓶を得て、本来のテーマを完結させる方向に戻ったような印象を受けた。山田監督も高齢ゆえ、あと何本の作品を残してくれるのか分からないが、その最終作まで付き合っていきたいと思っている。

さてさて、冒頭に書いたS叔父の話に戻るが、彼はある日突然「市議会議員選挙に立候補する」宣言をかまして周囲を大混乱に陥れた。親類一同で大反対したのだが、彼の意思は変わらず本当に立候補してしまった。そして何とビックリの当選をしてしまい、晴れてS市の市議になってしまった。金権選挙で有名なC県ゆえ、どんな手を使ったのかは分からないし分かりたくもないのだが(働きが悪いのでそんなに金は持ってなかっただろうけど)、周囲からバカにされていると自覚していたS叔父の人生一発逆転を狙った大勝負に見事に勝利したということになるのだろう。もっとも「あの人でも通用する市議会ってどうなの?」と言われていたので、親類の彼への評価はあまり変わりがなかったのだが。

おとうと.gif


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bamboosora

あの「突然ガバチョ!」の鶴瓶さんがこうなるなんて、
当時は想像つきませんでしたねェ。
by bamboosora (2010-02-13 15:23) 

nexus_6

S叔父さんの一発逆転人生、映画にでもなりそうですね。

うちの親戚はみんなまともで...
あ、大馬鹿者が居ました。私です。--;
by nexus_6 (2010-02-13 17:02) 

薔薇少女

>「どこの家でも親戚にひとりは困った人物がいるもんだ」
確かにそうかも知れないですね!
父方の叔父も喧嘩っ早い人で、危ない世界へ入ったとかどうとか・・・?
ある日、突然黒塗りのベンツで颯爽と肩で風切って
乗り付けて来たと思えば、又或る時は
浮浪者の様にボロボロの身なりでお金せびりに来たり・・・
親戚中迷惑の掛けられっ放しらしかったです?!(母談)
その人に比べると段平さんのS叔父さんは、結構まともで面白い
人なのではないでしょうか。
>『おとうと』は見てませんが、先日テレビで『母べえ』を、見た時は
想像してたよりずっと感動し、涙しました!
あの時代は、否応無く黒を白と言わなくては生きていけない
時代だったんですね。
by 薔薇少女 (2010-02-13 22:37) 

なぎ猫

こんにちは。鶴瓶さん、キネ旬の賞撮りましたね。Sおじさんの話、笑いました。そんな愛すべき(??)困りものの親戚がいらっしゃることが少し羨ましかったりして。
by なぎ猫 (2010-02-13 23:39) 

丹下段平

bamboosoraさん、こんにちは。
実は『突然ガバチョ』はタイトルは聞いたことがありましたが、実際に観たことはないのです。調べてみたら関東で放送された期間は4カ月しかなく、しかも深夜の2時半頃という誰も観ないような時間帯だったそうです。
それは観てませんが、鶴瓶はアフロヘアの頃から知ってはいました。
by 丹下段平 (2010-02-14 01:00) 

丹下段平

nexus_6さん、こんにちは。
実際自分がどう言われてるか分からないですから、僕も大馬鹿者と言われてるかもしれません(と書いたけど、そんなにインパクトがないので話題にもなってなさそうだけど)。
by 丹下段平 (2010-02-14 01:07) 

丹下段平

薔薇少女さん、こんにちは。
S叔父は笑い話で済みますけど、薔薇少女さんの叔父さんはリアルに困った人ですね。この映画の鶴瓶はその人を多少マイルドにしたような感じです。
僕も『母べえ』は良かったと思います。山田監督の主張が強く出ていた作品でした。
by 丹下段平 (2010-02-14 01:16) 

丹下段平

なぎ猫さん、こんにちは。
S叔父は愛敬だけはある人でした。今から思えばそんなキャラが選挙の時に有権者のハートを射止めたのかもしれません。議員としては役に立ったと思えませんが…
by 丹下段平 (2010-02-14 01:20) 

CORO

山田洋次が鶴瓶に希望を見出したように、
この人なら議会に新しい風を吹き込んでくれるかもと
S叔父さんに一票投じるかもしれませんね、私も^^
by CORO (2010-02-14 23:50) 

丹下段平

COROさん、こんにちは。
新風は吹き込まれなかったかと思いますが、周りがしっかりしていたならひとりくらい変なのが混じっても大丈夫だったかもしれません。
by 丹下段平 (2010-02-15 07:51) 

よーじっく

こんばんはぁ(^^)/

私は何故か、「みどりのいえ」のくだりが
一番、嬉しかったです。

寅さん映画にも、あんな感じのボランティアで
頑張る人たちが、時々出てきていたような
気がします。錯覚かもしれませんが
不思議と、それが山田洋次作品の根っこのような
気がして、印象に残っていたりします。
by よーじっく (2010-02-17 21:51) 

丹下段平

よーじっくさん、こんにちは。
そうですね、「みどりのいえ」のようなボランティアの人々って山田監督の映画らしいところですね。そんな人たちを寅さんがからかって、さくらに怒られるってシーンがあったような気がします。
最後に野垂れ死にさせずに、そんな救いの手を差し伸べるのが山田監督なんでしょうね。
by 丹下段平 (2010-02-17 23:33) 

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