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「ユナイテッド93」 [映画(2006)]

恐らく今年上映された作品中上位ランクの問題作であろう『ユナイテッド93』を観た。いや、観たというよりは体験したという言葉の方が適切に思える。

2001年9月11日、丁度この事件が起こった頃、僕は東京の場末にある焼肉店に会社の同僚といた。正確に言えば貿易センタービルに飛行機が追突した時間は、その焼肉店を出たか出ようとしていたかくらいの時間帯であった。そして帰宅した時には、既に貿易センタービルは無くなっていた。テレビが伝える映像の凄まじさにより、あまりの衝撃でほろ酔い気分は吹っ飛び、朝方まで繰り返し流れる崩壊の瞬間映像に釘付けになった。

実は恥ずかしい話なのだが、この映画を観る前は貿易センタービルに突っ込んだ飛行機の話だと思っていた。僕は映画を観る前、なるべく先入観無く観たいがために、その映画の情報は殆ど入れないようにしている。新聞の映画評はどのくらい大きく扱われているかと見出しのみに留めている。だからこのような誤解をしたままスクリーンに対峙してしまったのだ。尤も記憶力が良ければ貿易センターに突っ込んだ飛行機の便名を覚えていたかもしれないが、それは僕にとっては無理な話であった。

映画は意外な事にハイジャック犯の犯行前日の様子から始まる。映画の文法からすれば悪役といえる犯人の日常的なシーンからというのは珍しい。『ダーティーハリー』のように犯人から始めても、すぐに凶悪な犯行におよび観客に衝撃を与える、というパターンはあるが、この映画では日常的な風景を淡々と描いている。そこには特に犯罪者を扱うような視点はない。ただ冷静に彼らが映し出されている。

この映画全般に貫かれていることは、過剰な演出を排除し事実に近いと思われる事を冷静な視線で描く事、観客に自分もその場にいるような臨場感を与えるため全編手持ちカメラで撮られている事だ。前者は犯人も被害者も同格に扱われており、むしろ犯人の方が出番は多いくらいだ。後者は割と昔からある古典的な手法ではあるが、この映画を描くためには有効な手段であるだろう。

ストーリーは書く必要が無い。結果は皆知っている。間違っても『エアポート』や『ダイハード』のような奇跡は起こらない。墜落するまでの出来事をできるだけ事実に近いと思われるように、冷静に切り取っているのみだ。この映画を立場が僕より遥により近いアメリカ人は、乗客の勇気をヒロイックに観てしまうかもしれないが、乗客は生き残るために取った極限状態での行為であり、目的地のホワイトハウスに向かう途中で墜落し、アメリカの中枢が守られたのはあくまで結果であり、乗客はホワイトハウスを守るために立ち上がったのではない。

この映画は観る人の立場によっていかようにも見られる映画である。アメリカ人は乗客の立場になって彼らと共に立ち向かっている錯覚を覚えるだろうし、逆にテロリストに近い立場であれば目的地に向かっている途中で乗客の邪魔に会い、志半ばで命を落とした若者の話とも受け止められかねない。そのくらい作り手の感情を排除したドキュメンタリータッチになっているのだ。

したがってこの映画からは製作者サイドの主張やテーマの押し付けは無い。それらは観客に委ねられている。ただ意図としては事件を風化させない目的があったのだろう。この映画を観ることで2001年9月11日の記憶が蘇る。そして、あの事件を最初に知った時に各人が感じた事こそ、この映画のテーマになっているのだと思う。


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ホワイト・ラビット

丹下さん、初めまして。 この映画の衝撃は大きいそうですね。
アメリカ政府の「93便は墜落した」という公式見解を基にしてますが、
この事件は日本の新聞・テレビが伝えない事実が沢山あるようですね。
(最新の米・世論調査では約4割の人が政府の9/11への関与を疑っています…。)

「2001年9月11日にはテロは起きなかった・・・」とする、
22歳のディラン・エイブリー監督が百万円以下で自主制作した、
9.11 ドキュメンタリー「Loose Change=ルース・チェインジ」が
全世界で波紋を広げていますが、既に二千万人以上がネットで観て話題です。

いまアメリカ国内では「9.11真相解明運動」が高まっていて、
5年目に合わせ、NYで真実運動派の4日間のイベントも開催されます。
又、先日のCNNニュースでも、この映画の最後のテロップ部分の空軍の
93便・重要記録でも、新たな「ウソ」が明るみになって来ています…。

英語版なら色んな場所から、2弾=完全版を「無料」でダウンロードできます。
グーグル版は「911 cover up」410MBと著作権対策の「Recut」827MBあり。
英語字幕のデータは別にあります。字幕表示方法など詳しくは検索で。
観ると目から鱗が落ちるかもしれません。真実に関心があればお薦めします。
http://www.loosechange911.com/download/trailer.wmv
http://www.wa3w.com/911/index.html
http://www.mypress.jp/v2_writers/hirosan/story/?story_id=1461254
by ホワイト・ラビット (2006-08-26 15:54) 

アンソン

 んーーーー先に書かれてしまいました・・。僕もホワイトラビットさんに近いことを書こうとしたのです。この映画、ほんとによく出来ていて、見ている方も飛行機酔いするし、ハイジャックされた乗客の1人になった気がします。「大空港」的な映画手法も使わずに淡々と、ドキュメンタリータッチで撮ったことが、強いリアリティを作りだしています。見ていて痛々しいなんてもものではなく、胸が痛くなり、泣きそうになります。

   しかしながら、気になったのはラストのテロップ。なぜ、軍の動向を最後に詳しく伝える必要があるのでしょか?  大統領が撃墜命令を出したのは何時とか、それでも空軍は慎重でにそれを戦闘機には何時まで伝えなかったとか、なぜ、そんなことを延々と説明したのか?
もっと、乗客の家族のこととか、被害の大きさとか、その後の影響とか、説明するべきことはたくさんあるのに、なぜか? 軍の対応・・・。

  どうも、この作品は「実は軍が93便を撃墜したのではないか?」という説を否定するために
作られた感があります。もし、それが本当だとすると、軍がアメリカ人乗客を殺したことになる。けど、それを事実とするより、乗客が勇気を持って戦ったが、不幸にも墜落したと言う方が美談として誰もに受け入れられるからです。
 もちろん、真相は分かりません。乗客が戦ったのも本当でしょう。けど、この映画を見ると、やはり撃墜されたのではないか?と思えてきます。それがあの必要なまでの軍の関与の否定のテロップです。

 9/11事件は他にも疑惑があって、ペンタゴンの爆発も航空機が突っ込んだことになっていますが、どのメディアも新聞も破壊されたペンタゴンの建物は写しても、飛行機の残骸は写っていないのです。一節では航空機ではなくミサイルで攻撃を受けたのではないか?と言われています。
 そんな疑惑がいろいろとあるので、今回の映画。よくできているけど、何か、軍の関与を否定するニアンスが非常に強いので、引っかかるものがあります。
by アンソン (2006-08-26 17:20) 

丹下段平

ホワイト・ラビットさん、はじめまして。コメントありがとうございます。そちらのサイトにお返事しようと思ったのですが、英語のサイトだったのでこちらにします。アメリカで大きな事件が起こると必ずといっていい程、謀略説やら何やらが出てきますよね。機会があったらお薦めの作品観てみたいですね。

アンソンさん、いつもありがとうございます。このような題材はオリバー・ストーンが得意そうだと思うのですが、彼の次回作は『ワールド・トレード・センター』で、911の話ですが、貿易センタービルに入って救助活動をした警察官の話です。『JFK』『ニクソン』を作った人にしては控えめ(?)な感じですね。
by 丹下段平 (2006-08-26 22:37) 

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