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「ホルテンさんのはじめての冒険」 [映画(2009)]

ポスターを見た印象ではほのぼのとした軽いコメディを想像していたのだが、鑑賞前の予想より重い、コメディ的な要素もある人間ドラマであった。重いと感じたのは作品全体にちりばめられた「死」を意識させるエピソードに加え、北欧の寒々とした風景やホルテンの無表情振りも影響しているのかもしれない。

ノルウェー鉄道の運転手として永年勤続していたオッド・ホルテン(ボード・オーヴェ)は67歳を迎え、数日後には定年退職しなければならない。オスロからベルゲンまで運転し、定宿のホテルに泊まる生活もこれで最後。ホルテンが最後に運転した日はベルゲンからオスロまで飛行機に乗って帰るつもりなのだ。退職前夜、ホルテンは真面目な勤務態度により表彰を受け、その後同僚たちと送別会に出かける。そこでトラブルに巻き込まれ、何と翌日の退職当日、自分が運転するはずだった列車の発車時刻に間に合わず、別の運転手によって駅から走り去ってしまった…

物語はこの出来事をあまり引きずらず、退職して時間ができたホルテンが出会っていく人々とのやり取りを淡々と見せていく。そしてその人々には死が身近にあり、ユニークながら笑って観られるような能天気さはない。映画に漂う無常観の中、ホルテンは一歩踏み出す勇気と余生の身の振り方を見つけていき、しみじみとしたラストに繋がっていく。

それにしても雪深い北国で『ホルテンさんのはじめての冒険』を鑑賞した者にとっては、凍結した坂道を人が滑っていくエピソードなどは、似た境遇であるので共感できるものも少なくないが、見につまされてしまい苦笑するしかない。どうも寒冷地とコメディの相性はあまり良くないようにも思えてくる。その分、人生を振り返るような作品には向いてるのだろうけど。監督のベント・ハーメルはすでにアメリカでもメガホンを取っているが、そんなところも考えて敢えて再び故郷を舞台に作品を創ったのだろう。あまり馴染みのない国の作品だけど、このようなテーマは万国共通のものであり、親しみやすい作品になっている。

ホルテンさんのはじめての冒険.gif


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コメント 7

CORO

タイトルからして、のほほんものかと思ったら
ちょっと切なそうですね。
これは見てみなくては。
by CORO (2009-04-04 20:58) 

マヌカン☆

ポスターも予告編も、なんとなくコメディ映画のように思わせる作りですね。
パイプ、いい小道具になっていましたね。
そういえば昔おじいちゃんが使っていましたが 今の日本でパイプを使う人がどれだけいるんだろう・・・・・・イラストを見て思いました。
by マヌカン☆ (2009-04-05 01:20) 

丹下段平

COROさん、こんばんは。
切なさをユーモアで包んだ感じでしょうか。死が近くにある分、のほほんって感じは薄くなります。
by 丹下段平 (2009-04-05 02:04) 

丹下段平

マヌカン☆さん、こんばんは。
パイプで吸っている人見かけないですね。タバコよりもいい香りがするんですけどね。そう言えば僕の祖父はキセルでした。こちらもすっかり見かけなくなりました。
by 丹下段平 (2009-04-05 02:10) 

ばん

今更禁煙できません。
by ばん (2009-04-05 09:55) 

丹下段平

僕もです!
by 丹下段平 (2009-04-05 19:39) 

CORO

今さらですが、これキッチン・ストーリーの監督だったんですね。
この監督のちょっとくたびれた感じ(?)が好きです。
by CORO (2009-08-08 20:03) 

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