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お宝じまん(その8) 大島渚監督 [映画-秘宝館]

PFF.jpgそれはまだ僕が学生で、友人たちと自主映画を創っていた頃のこと。友人Mの8ミリ映画がPFF(ぴあフイルム・フェスティバル)に入選したので、少しだけ手伝った僕も同行してイベントに参加した。そこでは最終審査が行われたのだが、僕はそれにはあまり興味がなく、楽しみは終了後のパーティであった。そこには審査員の面々も参加するため、有名監督と間近に会える大チャンスだったのだ。

僕の狙いは何と言っても大島渚監督。『愛のコリーダ』『愛の亡霊』でカンヌ映画祭を沸かせ、新作の『戦場のメリークリスマス』も話題になっていた。しかし僕にとっては名画座で観ていた『青春残酷物語』や『絞死刑』の方が「らしい」監督に思えていた。映画的な面白さよりも、着眼点や切り口に興味を惹かれ、主に文芸地下劇場で特集の上映を追いかけたものだ。

友人Mの作品は最終選考に残らなかった。がっかりするMを横目にいざパーティに突入。この時のために古本屋で探し出した、大島監督1969年度作品『少年』のパンフ(アートシアター69号)を鞄に潜ませチャンスを窺った。しかし、どちらかと言えばオタク系に近い面々の集まりで、あまり有名な監督に近寄ろうとする人間がいない。こうなるとかえって近づき難いもので、話しかけるには勇気が必要だった。しかし振り絞って声をかけてみた。

「あの、これにサインいただけますか」と古びた『少年』のパンフを差し出してみた。大島監督はそれを見ると「随分古いもの持ってるねぇ」と少し驚いたように語りかけてくれた。「はぁ、まぁ…」

「はぁ、まぁ…」じゃなかろう、昔の俺!

緊張で何とも情けない受け答えしかできなかった。僕は快くサインしていただいた大島監督にお礼を言ってその場を立ち去った。せめて「『絞死刑』が(大島監督作品の中で)一番好きです」くらいは言えなかったのだろうか。後にも先にも大島監督に会えたのはこの一度きり。何でもう少し気の利いた会話ができなかったものかと、思い出すたびに後悔する。

ちなみに一番好きな『絞死刑』のパンフも古本屋で購入して持っていたのだが、白い部分の多い『少年』のパンフの方がサイン映えするだろうという判断でこちらにしたのだった。

それにしても…(と、また後悔)

少年パンフ.JPG


タグ:大島渚
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duke

心中、お察ししますが、
その場にそのパンフレットを持って来られたことで、
監督は全てをご理解なさったのではないでしょうか?^^
by duke (2009-09-22 15:46) 

bamboosora

1969年製作の『少年』って、すごいですね。
とは言っても、僕はこの作品をまったく知りませんでした。
僕にはまだまだ観てない映画がたくさんあるので、
これからも日々修行していかないといけませんね。
ちなみに、僕のATGデビューは「ヒポクラテスたち」と
「ミスター・ミセス・ミス・ロンリー」の2本立てでした。
その後、深夜のテレビで「竜馬暗殺」を観たことがあります。
by bamboosora (2009-09-22 18:36) 

ばん

大事にして下さい。
by ばん (2009-09-22 21:39) 

なぎ猫

へえ、大島監督にお会いしたことがあるんですね。
すごいご経験ですね。でも、憧れの強い人にお会いすると
言葉って意外と出てこないものですよね。
PFFはいまや若手監督の登竜門ですね。
by なぎ猫 (2009-09-22 21:51) 

マヌカン☆

携帯で拝見したときよりも パソコンで拝見する今のほうがフォントの色や大きさで丹下さんの無念さが胸に迫ります(笑)
とはいえ、監督さんは喜ばれたと思いますし、思いはしっかり感じ取られたことと思います。
「少年」の出演者、小山明子さんの名がありますね^^
by マヌカン☆ (2009-09-23 00:13) 

丹下段平

dukeさん、こんにちは。
大島監督もフアンと思ってくれたとは思いますが…
この頃は社交性ゼロに近かったもので…
by 丹下段平 (2009-09-23 00:58) 

丹下段平

bamboosoraさん、こんにちは。
この時代の邦画は大手映画会社の作品ばかりで、小規模でユニークな作品はATGくらいしか無かったようです。『少年』は当り屋家族の話で、悲しい物語でした。
by 丹下段平 (2009-09-23 01:02) 

丹下段平

ばんさん、ありがとうございます。頂戴したサインは全て大切に保存しております。
by 丹下段平 (2009-09-23 01:03) 

丹下段平

なぎ猫さん、こんにちは。
僕の場合、特に緊張しやすい性格なもので、こんな場面はしどろもどろになってしまいます。尤も今は多少図々しくなりましたが…。
by 丹下段平 (2009-09-23 01:05) 

丹下段平

マヌカン☆さん、携帯とPC両方でご覧いただきありがとうございます。
記事はPCで見てもらうことしか想定していないので、色とかフォントを変えておりますが、携帯だと全て同じになってしまいますね。それが残念です。
大島監督の奥方である小山明子さんは、殆どの作品に出演しています。何でも出演料を抑えられるからだとか…?
by 丹下段平 (2009-09-23 01:11) 

CORO

口をついて出た言葉がとてもリアルですね。
これが映画の中のワンシーンだったら、絶賛しそうです^^
by CORO (2009-09-23 22:18) 

丹下段平

映画だったら良かったのですが、現実なんで…
ホントに時間を戻したい気分です。
by 丹下段平 (2009-09-24 00:45) 

なちゃ

僕も憧れのミュージシャンにサインをお願いする時に、古いLPレコード持って行ったことがあります。他の皆さんは最新のCDなのに・・・
で、同じようなお言葉をもらいましたよ。『わははは!古いの持ってきたなー』って(笑)。
額縁に入れて飾ってあります。
by なちゃ (2009-09-26 17:29) 

丹下段平

サインする側は最新の作品の方がサインする側は嬉しいのだろうかとも考え、悩んだりしますが、ファンとしてのこだわりを示すのも悪くないのかなとも思えますね。その辺、ご本人たちに聞いてみたいところです。
by 丹下段平 (2009-09-27 00:18) 

薔薇少女

素敵な想い出ですね!
まるで、初恋の人に告った時の様に純酔だったんですね。
きっと、監督の心には残ったと思いますよ!
by 薔薇少女 (2009-10-12 17:02) 

薔薇少女

あの頃、格好つけて『初恋・地獄篇』とか、見に行っていましたが、
あんまり、覚えていません。
彼に合わせて、ヒッピーの様な格好をして、麻縄で編んだズタ袋提げて
アングラ喫茶で、たむろってました。

by 薔薇少女 (2009-10-12 17:16) 

丹下段平

薔薇少女さん、凄い過去ですね。でも、そんなことしてみたかった。タイムマシンがあったら、1970年頃の新宿に行ってみたいと思ってます。
僕も『初恋・地獄篇』は観ましたが(なぜか深夜のテレビで放映された)、ほとんど何も覚えてません。確か監督が羽仁進で脚本が寺山修二じゃなかったですか? 観ながら寝てしまったので覚えてる訳ないですよね。
by 丹下段平 (2009-10-12 23:23) 

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