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「のんちゃんのり弁」 [映画(2009)]

中学生の頃、東京の山の手と下町の境目みたいな所に住んでいた。通っていた公立中学校には下町のラーメン屋の息子と山の手の弁護士の娘が机を並べていた。当時一番仲良かったのは、祖父が鳶の頭で自宅にまといが置いてある家の下町っ子で、彼の家には頻繁に遊びに行っていた。残念ながら鳶の頭はすでに他界していたが、江戸文化を受け継いだような友人宅は、転勤族だったサラリーマンの息子の目には新鮮で楽しいものであった。

この『のんちゃんのり弁』は核に女性の自立というテーマがあるものの、基本的には日本映画の伝統を引き継いだ下町人情もの。良く言えば下町ならではの温かみのある居心地の良さ、悪く言えばなあなあな生ぬるさが伝わってくる作品である。

永井小巻(小西真奈美)は自称作家で実は家でゴロゴロしているだけの夫(岡田義徳)に愛想をつかせ、母(倍賞美津子)のいる下町にある実家に、一人娘ののんちゃんを連れて出戻った。のんちゃんを実家近くの幼稚園に転入させたところ、そこには同級生の麗華(山口紗弥加)が先生として働いていた。収入のない小巻は麗華に職を相談するが紹介されたのは水商売。昼間の仕事に就きたい小巻は求人広告を出している会社を訪ねるが、どこへ行っても不採用。結局麗華に紹介されたスナックに雇ってもらうが、世間知らずの小巻には一日として勤まらず。そんな中、のんちゃんに毎日持たせているのり弁が幼稚園で大評判になっていて…というお話。

主人公の小巻は世間知らずで楽天的で、世の中を甘く考えているキャラ。「自分の力で何とかする!」と宣言しては結局どうにもできず他人の世話になる羽目に。小巻を取り巻く周囲の人たちも多少は厳しいことを言っても、最終的には手を差し伸べるので甘えの構造は治らない。そんな悪循環な環境で育った小巻は30歳を超えても一向に人間的な成長がみられない。料理の勉強のため弟子入りした小料理屋の主人(岸部一徳)が一番手厳しいのだが、それでも最後には助け船を出してくれる。

女性の自立がテーマではあるが、「下町に居ちゃあ、なかなか難しいよね」と思えてくる。人情溢れるお人好しな人々のいる環境が小巻にとっては良し悪しなのである。林家三平の娘・泰葉の騒動を思い浮かべれば納得できると思うけど、結局幾つになっても子供っぽさが抜けきらない。

でも「そんな下町が好き」で「いつかは住んでみたい」と思う僕も、幾つになっても多分甘ちゃんなんだろうなぁ…。

のんちゃんのり弁.gif

 

(ひとり言)


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「南極料理人」 [映画(2009)]

世間の評判が良さそうなので観てみることにした。南極観測隊に帯同した自衛隊の料理人のエッセイが原作なので、実話をほぼ忠実に映画化したということなのだろう。極寒の地の密封された空間で長期間過ごす男8名。外に出ても雪原が広がるのみ…

…イヤだな…

と当然のことながら思う。いくら仕事とはいえ、精神的には相当きつかろう。例え休日があっても、顔を合わすのは見飽きたムサイ野郎のツラばかり。そんな悲しい環境の中で必要とされたのがダッチワイフらしいのだが、この作品には登場しない。

映画の内容としてはそれほど驚くべきこともなく(僕が北海道に住んでいるので寒いことには驚かないせいかも?)、南極料理人・西村(堺雅人)の目から見た日常のエピソードをスケッチ風に描いているので、どちらかと言えば平坦。世間の評判ほど面白い作品ではないという印象。時々挿入される日本に残してきた妻(西田尚美)と2人の子供の様子から、家族の大切さが実感できるという展開に繋げたのが良いところ。ちょっとホロリとさせられる。

役者陣は堺雅人は別として、きたろうや生瀬勝久など単に人気ある人だけ集めた訳じゃない面々。むさくるしいけど浮ついたキャスティングじゃないのが好感を持った。

それにしても南極のロケ地は北海道なんだとか。そこに住んでいる者としてはいささか複雑な気分。「そうか、自分は南極みたいな所に住んでいるのか」と考えると東京が恋しくなってくる。もっとも外に出れば女性はいるんだけどね…。

南極料理人.gif


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「幸せはシャンソニア劇場から」 [映画(2009)]

一年に何本かは無性に好きな映画に出会える。この『幸せはシャンソニア劇場から』もそんな中の一本。1930年代パリの下町にある寂れた劇場「シャンソニア」を舞台にした、そこで働く裏方と芸人のエピソードがベテランの裏方ピゴワル(ジェラール・ジュニョ)を中心に描かれる群像劇。

1936年大晦日のパリの下町。シャンソニア劇場は今日もレビューの幕が開こうとしているが、裏方のピゴワルは出演者である妻の浮気に気付いてしまい、心中穏やかではなくなっていた。しかしもっと深刻な立場であるのは支配人。赤字続きの劇場を維持するために膨れ上がった借金の返済をヤクザのような不動産屋のギャラピアに迫られていた。返済する当てのない支配人は思い余って自殺。シャンソニア劇場は閉鎖となり、権利はギャラピアの手に渡ってしまう。失業と妻に逃げられたショックが重なりピゴワルはすっかり気力を失っていた。一人息子のジョジョはそんな父を見かねて、近所に住む引きこもり老人のラジオ男(ピエール・リシャール)に習ったアコーディオンを街頭で演奏しては小銭を稼ぐようになった。そんなある日、息子の行為を知ったピゴワルは激怒するが、ピゴワルに子供を扶養する資格なしとみなされ、遠い街で実業家と再婚した元妻に引き取られてしまう。さらに落ち込むピゴワルであったが、物まね芸人ジャッキー(カド・メラッド)、組合運動に熱心な照明係のミルー(クロヴィス・コルニアック)と共にシャンソニア劇場を再建するチャンスを得る。数少なくなった芸人の穴を埋めるべく行われたオーディションに現れたドゥース(ノラ・アルネゼデール)。彼女はギャラピアの紹介で彼の愛人とも噂されていたが、美貌と歌声で採用することになった。世間の話題にもなった新生シャンソニア劇場は大入りで初日を迎えたが、出し物が不評で日に日に客足は遠のいていき…というお話。

この後、まだまだシャンソニア劇場は波乱万丈な運命を辿る。前半は端役と思えたラジオ男が後半のキーマンになったり、一人息子のジョジョが思わぬ活躍をみせてくれる。

それにしても劇場とは特異な空間である。そこで行われているものは嘘っぱちでありながら、幻の夢や希望に溢れ、役者の感情に笑い泣きしている内に真実であるかのように思えてくる。そんな不思議な現象を成立させるマジックのような空気が詰まっている。表方も裏方も、そして観客も一度足を踏み入れたら病みつきになる。そしてこの『幸せはシャンソニア劇場から』のフィルムにもそんな魔力が満ち溢れていた。

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「ちゃんと伝える」 [映画(2009)]

愛のむきだし』に続く、公開が今年2本目の園子温監督作品。前作の規格外で独創的な作風から一転、この『ちゃんと伝える』は拍子抜けするくらいに枠に収まった万人受けを狙ったような作品。予告編を観た印象で予測はできていたものの、園監督ならば何らかの捻りがあるかもしれないと期待したのだが、実にストレートでしかもダブルの難病もの。その扱いも効果がいまひとつとなれば、果たしてこの作品を創った意図はどこにあったのかと首を捻りたくなってしまう。

史郎(AKIRA)は地元である地方都市のタウン誌に勤務し、幼馴染で今は恋人の陽子(伊藤歩)とは結婚を意識した間柄。しかし高校サッカー部で鬼コーチだった父(奥田瑛二)が癌で入院しており余命わずかと宣言されている。それを知らされていない父は退院して史郎と湖に釣りに行くことを楽しみにしている。嘗ては厳しく馴染めなかった父ではあったが、何とか願いを叶えてあげたいと思う史郎であったが、自分も癌に侵され、父よりももっと深刻な状況であると医者に告げられてしまう。親より早死にするのは最大の親不幸と悩む史郎。せめて父より長生きしたいと願うのだが…というお話。

一般的には良いお話なんだと思う。自身も癌で父を失った園監督の素直な気持ちが反映されているのだと思える。しかしそんな現実がありながら、何となくリアルに感じられず感動できなかったのはいったいどうしたことだろう。

僕も叔父を癌で失ったが、この映画の2人のような穏やかな闘病生活とはかけ離れた様子であった。その記憶があるので癌に侵された人がこんなに元気そうなのは嘘に思えてしまった。特にAKIRAは父よりも進行しているのに全くそんな雰囲気がなく、こんな調子なら願い通り父より長生きできるよ、と思えてしまった。全体的に忍び寄る「死」が胸に迫ってこないのが最大の欠点で、園監督が本当に創りたかった作品なのだろうかと疑問に感じてしまった。前作が長さや内容でユニーク過ぎたので、今後スポンサーが逃げ腰になることを恐れ、普通の映画も撮れることをアピールするために創ったのではないかと、意地悪な推測まで頭をよぎる。日本映画の「お家芸」である難病ものも、園監督より上手な監督は大勢いる。あまり畑違いな作品に手を出さない方が賢明に思えるのだが。

そういえば『愛のむきだし』のヒロイン、満島ひかりが女子高生役で出演していた。彼女が出てくると何か期待してしまうのだが、今回はワンポイントのゲスト扱い。ブリブリ演技に思わず笑ってしまった。

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「女の子ものがたり」 [映画(2009)]

今年2本目の西原理恵子原作モノの映画化。6月に観た『いけちゃんとぼく』は男の子が主役だったけど、この『女の子ものがたり』はタイトルにあるように女の子の話。性の違いはあれど、何となく主人公に共通するものが見受けられることから、原作者自身の生い立ち、体験や性格まで双方に反映されているものと思われる。こんな作品は作者の想いが籠るもの。さらにこちらの方が自伝に近いらしい。

物語は現在の主人公・高原菜都美(深津絵里)が小学生時代(森迫永依)と高校生時代(大後寿々花)を振り返る設定になっており、2人の親友との友情が深まる様子と、成長するにしたがって変化していくお互いの関係が描かれている。そんなエピソードを回想する今の菜都美は漫画家になっており、スランプに陥っており無気力状態。担当編集者の財前(福士誠治)にせっつかれても、のらりくらりと振り回すのみ。回想の友情物語を受けて現在の菜都美がどうなるのかがポイントになっている。

基本的には「いい話」なのだが、その一方で際立ったものがない分、作品の印象が薄い。元々長い原作だったのを映画用にエピソードを摘まんでいると思われるのだが、夫々は丹念に描いてはいるもののエピソード間にブツ切り感もあり、いまひとつ深みが増してこない。例えばはじめてできたBFとは出会いから初キスまで描いておきながら彼の出番はそれっきり。後はご想像にお任せします、ってことなんだろうか。

それにしても幸せになれない女の子たち。ロクデナシな男にひっかかり、ロクデナシな両親(あるいは片親)と同じ道を歩もうとしていく彼女らの運命が悲しい。それが分かっていながら止められない菜都美。「女の子の道はどんどん伸びていく」けど棘の道になっている。もっとも歩きやすい道ばかりの人ってそうはいないだろうけど…

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「サマーウォーズ」 [映画(2009)]

サマーウォーズ 公式ガイドブック  SUMMER DAYS MEMORYアニメ版『時をかける少女』の細田守監督の新作アニメーション。前作が良かったので、この『サマーウォーズ』も楽しみにしていた。長野県上田市にある由緒ある旧時代的な大家族とコンピュータ内のバーチャルな世界が交差するのがユニークで、今回も楽しんで鑑賞することができた。

…のだが、どこか冷めて観ている自分がいた。旧家で大家族の騒動は面白かったのだが、「セカンドライフ」的な仮想世界と、それが現実の世界に多大なる影響を与えるという部分が、理屈では分かるのだが、実感としてしっくりこなかった。これは作品がどうのこうのではなく、僕自身が

おじさんになった

からで、多分時代についていけなくなりつつあるのだろう。今後、仮想世界みたいなものには参加しないだろうし、するつもりもない。よっぽど入りやすいのがあったら…それでもやらないだろうなぁ。

それにしても細田監督は今回も人物を丁寧に描いていた。夫々のキャラクター設定がしっかりしているので、人物のやりとりだけでも充分に楽しめる。声優陣もなかなかな配役で、主人公が神木隆之介で、彼を長野に誘った女の子に桜庭ななみ(知らない子だったけど…)、コンピュータばかりいじっている男の子に谷村美月、そして大家族の要になる老婆に富司純子。特に富司純子は一本筋の通った感じがピッタリだった。

ちょっと季節は過ぎつつあるのだけど、日本の夏を疑似体験できる佳作。やっぱり日本のアニメーションは質が高い。


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「ナイト ミュージアム2」 [映画(2009)]

この『ナイト ミュージアム2』を観ると、続編が1作目(→記事)を内容的に上回ることって難しいもんだなぁと思える。前作に比べて舞台の博物館が大きくなりスケールアップはしているのだが、面白さがそれに比例していない。根本的な優れたアイディアは前作で出してしまっているので、今回はそれを踏襲して規模を大きくしただけになってしまっている。1作目を観ているこちらにサプライズはなく、新鮮さは感じられない。もっとも前の作品で活躍したキャラクター(展示物)に再び会えた楽しみはあるのだが、捻りがなく使い方も前作の方が上手くいっていたので盛り上がりに欠けてしまっている。

発明家として成功を収めたラリー(ベン・スティラー)は今や社長として忙しい日々を送っている。そんな中、成功する以前に夜間の警備員として働いていた自然史博物館を訪れてみると、嘗ての仲間たちは梱包されスミソニアン博物館に送られようとしていた。客足が鈍っている自然史博物館はルーズベルト大統領の蝋人形(ロビン・ウィリアムズ)とティラノサウルスの骨の剥製を残して、他の展示物をリニューアルしようとしていたのだ。成す術ないラリーは別れを惜しむことしかできず、後日みんなスミソニアン博物館に送られてしまった。しかしスミソニアン博物館に送られたミニチュアのカウボーイ(オーウェン・ウイルソン)からSOSの電話が入る。展示物を動かした石板もスミソニアンに送られたため、そこにあった展示物まで動き出してしまったのだ。ピンチを知ったラリーはワシントンのスミソニアン博物館を訪れ、厳重な警備を突破して自然史博物館の仲間たちのいる倉庫に潜入した。そこに待ち受けていたのは歴史上の悪役たちであった…というお話。

この後、女性初の大西洋単独横断飛行に成功したアメリア・イヤハート(エイミー・アダムス)とのラブロマンスがあったり、自信家な割には頼りないカスター将軍(ビル・ヘイダー)が仲間になったり、巨大なリンカーン大統領の銅像と出会ったりとあの手この手で賑やかなのはいいけど、前作のようにみんなで協力し合って、というよりラリーとアメリアに焦点が当たり過ぎた分、物語が弱くなったように思えた。ベン・スティラーもどうも地位が向上したためか二枚目的な方向にシフトしつつあるように思え、面白くなくなってきた。

今後も同じパターンで続編を作ることが可能だろうけど、恐らく1作目は越えられまい。内容的に潮時のように思えるのだが、多分ヒットしているだろうからそんな後ろ向きには考えないんだろうなぁ…。

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「96時間」 [映画(2009)]

パリを旅行中に誘拐された娘のため、単身フランスへ乗り込んで奪還しようとする父親の話。極めて単純明快でストレートな内容。昔ならばチャールス・ブロンソンかクリント・イーストウッド辺りが演じそうな主人公。正直なところ、あまり期待せずに鑑賞したのだが、これが

かなり面白かった。

冒頭、元アメリカの秘密工作員だったらしいブライアン・ミルズ(リーアム・ニーソン)が、愛想を尽かされた元妻(ファムケ・ヤンセン)と娘のキム(マギー・グレイス)に冷たくあしらわれ、どちらかと言うとダメ人間っぽい様子を見せておいて、娘がパリで誘拐されると同時にスイッチが入り、とんでもなく有能で非情な追跡者に変身する。昔の同僚によって犯人はアルバニア系の人身売買組織ということをつきとめる。その場合、娘を取り戻せるリミットはせいぜい96時間であることも判明。パリに飛んだブライアンは娘が連れ去られた現場へ。荒らされたアパートの部屋に転がっていた娘の携帯電話を発見し…というのが発端の部分。そこからはひたすら娘と人身売買組織を追っていくだけで、タイムリミットがあるから横道に逸れてる余裕もない。

必死の主人公は娘可愛さの気持ちしかなく、悪人だろうが違かろうが他人には非情な仕打ち。「自分の娘のためなら他人なんてどうなっても構わない」を実践する、全編ウルトラミラクル親バカストーリーなのだが、主人公の気持ちと動機がはっきりしている分、どんなに無茶しても観ているこちらとしては納得がいく。

この作品を監督したのはこれが2作目のピエール・モレル。切れのいい演出がこの作品を面白くした大半を占めている。ポスターの名前は監督よりずっと大きく書かれていたリュック・ベッソンは脚本と製作で関わっている。近年リュック・ベッソンが絡んだ作品の中ではピカイチだったんじゃなかろうか(全部観てる訳じゃないけど)。とにかく能書きはさておき、そんなにヒットしてないみたいだけど拾い物なので見逃さないでいただきたい作品である

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「キャデラック・レコード」 [映画(2009)]

キャデラック・レコード~音楽でアメリカを変えた人々の物語 デラックス・エディション黒人の民俗的な音楽であったブルースを大衆化し、現代のポピュラー音楽の原点になったチェス・レコード。この映画『キャデラック・レコード』は、チェス・レコードの創設者で社長のレナード・チェス(エイドリアン・ブロディ)と創設時からレーベルを支えた伝説的なブルース歌手マディ・ウォーターズ(ジェフリー・ライト)の二人を軸に、リトル・ウォルター(コロンバス・ショート)、チャック・ベリー(モス・デフ)、エタ・ジェイムズ(ビヨンセ・ノウルズ)らの活躍を描いた、事実に基づいた作品である。

それほど音楽に造詣が深い訳ではない自分にとっては、チャック・ベリーは音楽を聴いたことがあったものの、後のアーティストは名前を聞いたことがある程度であったし、チェス・レコードというレーベルがあったことも知らなかった。なので、この作品は音楽をたっぷり聴くことができたと同時にとても勉強になったという印象を受けた。ブルースがマディ・ウォーターズによって大衆のものになり、やがてブルースにカントリー・ミュージックを加えたようなユニークな音楽を奏でるチャック・ベリーが現れ、その彼の音楽がロックンロールと呼ばれるようになった、なんてことも分かりやすく教えてくれる。そして更に彼らの音楽に影響を受けたローリング・ストーンズを筆頭とした次世代のアーティストによってロックやソウル、そしてヒップホップまで発展していったことも読み取れるようになっている。その一方、チェス・レコードの音楽は次第に時代から遅れていき衰退していく。後期の稼ぎ頭だったチャック・ベリーは人気絶頂の時に問題を起こして収監されてしまう。他のアーティストも酒やドラッグに溺れ自滅していく、という具合にほろ苦い末路が待っているのだが、これが現実なので致し方ない。

The Best of Chess: Original Versions of Songs in Cadillac Recordsそれにしても音楽が素晴らしかった。出演者は役者や歌手が混じっているのだが、皆渾身の歌を披露してくれる。特にエタ・ジェイムズを演じたビヨンセは圧倒的な歌唱力で気合が入っていることが伝わってくる。現代のトップ歌手である彼女は、この作品のプロデューサーにも名を連ねていることからチェス・レコードへのリスペクトも感じられる。もしかしたら映画ファン以上に音楽ファンの方が興味を抱く作品かもしれない。僕は観終わってすぐCDショップに走り、サントラ盤を買ってしまった。そしてその横に置いてあったオリジナルのアーティストによるCDも併せて購入した。観ればサントラ盤が欲しくなること請け合いの映画である。

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「色即ぜねれいしょん」 [映画(2009)]

色即ぜねれいしょん オリジナル・サウンドトラックこの『色即ぜねれいしょん』の原作者、みうらじゅんの話を聞くのが好きだ。彼の目のつけどころのユニークさであったり、とことん追求するマニアックな姿勢であったり、いつも興味惹かれると同時に感心させられる。加えて彼の飄々としたトークには思わず笑みがこぼれてしまう。みうらじゅんの場合、同じことでも活字で読むよりも本人のトークを聴く方が圧倒的に面白いので、彼の本はあまり持っていない。『色即ぜねれいしょん』も小説は読んでいないが、彼の語りで似たようなことをラジオで聴いたような気がする。

京都にある仏教系私立男子校に通う純(渡辺大知)は夢想家で音楽好きの高校一年生。セックスにはとても興味があるが、まだ女の子と付き合ったこともなく童貞とおさらばするには程遠い。一人っ子であるためか両親(堀ちえみ、リリー・フランキー)からは溺愛されており、そんな平和でヌルい環境が純のコンプレックスにもなっている。そんなある日、小学校時代に同級生だった足立恭子(石橋杏奈)にあっさりフラれたのを機に、同級生(森岡龍、森田直幸)から誘われていた隠岐島への旅行を決意する。彼らによればそこはフリーセックスの島であるらしい。夏休みになり、意気揚々と出かけた道中のフェリーで、いきなり超色っぽい女の子オリーブ(臼田あさ美)と仲良くなり、期待は高まっていくのだが…というお話。

特に何か大きな事件が起こるわけでもなく、とんでもない展開が待っているということでもない。1974年を生きる高校生の等身大の物語。

でも、これが面白い。

必要以上にノスタルジックな方向へ傾いておらず、スケールは小さくともその年代の想いや悩みを田口トモロヲ監督が丹念に瑞々しく描いている。この類の映画が面白くなるかならないかはキャラクターの描き方に負うところが大きいと思える。主人公の純(=みうらじゅん、なのだが…)は音楽が好きで特にボブ・ディランに傾倒している、その影響でギターを弾くのが得意、通信教育で空手を習っている、一人っ子で両親に溺愛されている等、細かなキャラクターに対する情報が多い分、こちらもその人物に対する理解が深まり共感に繋がっていく。これだけその人物のことが分かっていれば、後は大きな事件が起こらなくても面白く観ることができる。また、その人物設定(みうらじゅん、そのものなのだが…)が個性的であるがために物語が非凡に思えてくるのだろう。

それにしても主人公の純を演じた渡辺大知、隠岐島のユースホステルでヘルパーをしているヒゲゴジラを演じた峯田和伸、純の家庭教師を演じた岸田繁は皆ミュージシャンなのだが、揃って良かった。本業よりも役者の方が向いているんじゃないかと思えるくらいである。特に峯田和伸は「あ~、昔はこんな人、いたいた」と言いたくなるほどの好演。全般的に出演者が活き活きと描かれていたのは、監督が役者の人だからなのだろうか。ちなみに昔は大根の代名詞だった堀ちえみにしても、違和感なく物語に溶け込んでいたことも付け加えておきたい。

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